民主党のバイデン大統領が勝利した昨年の米大統領選から、3日で1年となった。共和党のトランプ前大統領が繰り返す「不正選挙だった」との主張は今も多くの支持者に浸透し、共和党は一部の州で選挙結果の再集計を求め続けている。(アリゾナ州ツーソン 横堀裕也)

 砂漠が広がる州内第2の都市ピマ郡ツーソン。中心部の幹線道路沿いに10月、大きな看板が現れた。うつむくトランプ氏の写真の横にこう書かれている。

 <トランプは負けた。監査はやめよ>

 「監査」とは、州議会が独自に行う票の再集計のことだ。看板は、これに反対する保守系団体が設置した。

 アリゾナ州は保守的な土地柄で、共和党の牙城だった。大統領選でバイデン氏は同州を0・3ポイント差で制し、民主党候補として24年ぶりに勝利した。しかし共和党が多数派の州議会は票の「監査」に乗り出した。

 州議会は州都フェニックスのあるマリコパ郡で監査を行ったが、9月に発表された再集計結果でも結果は変わらなかった。しかし共和党はあきらめず、ピマ郡にも監査を広げる動きを見せる。

 有権者の意見も割れている。近くの中古品店で買い物をしていたヘズース・ヘルナンデスさん(67)は看板を見るなり、「トランプ氏が負けたとは到底思えない。調査を続け、トランプ氏を大統領に戻すべきだ」とまくし立てた。

 米メディアなどによると、今もアリゾナなど少なくとも5州で選挙結果の再集計などを求める動きがある。9月にCNNが発表した世論調査で「バイデン氏が正当な手法で勝利した」と考える人は共和党支持者では、わずか21%にとどまった。

 次期大統領選への出馬を狙うトランプ氏はこうした動きをあおる。選挙から1年、米国の分断は癒えない。

フィンチェム氏の選挙ビラ
フィンチェム氏の選挙ビラ

トランプ氏「公認」

 10月28日、アリゾナ州ピマ郡ツーソンにある共和党ピマ郡支部の本部。手に取ったビラには、カウボーイハットをかぶって星条旗の横で笑顔を見せる男性が写り、こう書かれていた。

 「私と共に自由で公正な選挙のために戦おう」

 来秋の州務長官選に立候補しているマーク・フィンチェム州下院議員の選挙ビラだ。スタッフの女性(71)は「彼の知識量はすごい。良い情報をたくさん持ち合わせていますよ」と持ち上げた。

 フィンチェム氏が主張しているのが、昨年の大統領選の結果を州が独自に再集計する「監査」だ。州務長官は選挙事務も統括するため、当選すれば再集計を主導できる。トランプ前大統領の「公認」も受け、選挙に不正があったとの主張を連発する。「選挙制度を不正に変更した人々を逮捕すべきだ」などと過激な発言が目立つ。

 一般市民にもこうした主張はある程度浸透している。ツーソン中心部で買い物中だったアル・ロバーツさん(78)は「選挙は不正まみれだった。米国は三流国家に成り下がった」と吐き捨てた。