Vince Golle、Olivia Rockeman、Reade Pickert
- 個人給付で膨らんだ可処分所得、サービスよりもモノへの支出に傾斜
- 労働参加率の伸び悩みで賃金上昇-大企業は値上げで労働コスト相殺
米インフレ予測を巡り、エコノミストは謙虚にならざるを得ない理由を多数突き付けられた。新型コロナウイルス感染再拡大や世界的なサプライチェーン制約、景気刺激策に支えられた個人消費などの要因が重なり、ウォール街や当局者の予想を大幅に上回る水準に物価上昇率を押し上げたためだ。
米労働省が10日発表した10月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比6.2%上昇と、全予想を上回る大幅な伸びとなった。以前の物価上昇は総じて新型コロナ禍緩和後の経済活動再開に関連する分野に限定されてきたが、10月の統計は物価圧力の広がりを示唆している。
ドイツ銀行の米国担当チーフエコノミスト、マシュー・ルゼティ氏はインフレ予測について、過去1年間は「信じられないほど難しかった」とし、今後も困難な状況が続くとの見通しを表明。「インフレ見通しに引き続き上振れリスクがある状況で、物価圧力を十分組み入れていると考えるのには無理がある」と語った。
エコノミストは年初以来、CPI上昇率見通しの上方修正を余儀なくされてきた。当初は新型コロナ禍の影響が大きかった前年との比較のベース効果で、物価上振れのゆがみが生じていると想定されていたものが、もっと持続的な問題であることが鮮明になってきたためだ。
パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長をはじめとする金融当局者の多くは今年、物価圧力は一過性のものであることが判明するだろうとの見方を重ねて示してきた。パウエル氏は先週、高インフレが何カ月か続くとしても労働市場が一層改善するまで利上げの検討に入らないと語った。
一方で、サマーズ元財務長官やダドリー前ニューヨーク連銀総裁を含む一部の著名エコノミストは過去1年近くにわたり、一段と高水準で持続的なインフレについて警告してきた。
誤算
エコノミストの間では、米政府が経済対策の一環として実施した個人給付の結果、可処分所得が膨らむとともに、ワクチン接種も進展することで旅行や外食、娯楽などサービスに支出の多くが振り向けられる一方、モノへの支出は相対的に抑えられ、サプライチェーンへの負荷が多少緩和されるとの見方が多かった。
しかし、デルタ変異株の流行は累積需要の多くの部分をモノの支出に傾斜させ、特にアジアを中心にサプライチェーンにさらなる負荷がかかることになったと、ムーディーズ・アナリティクスの金融政策調査責任者、ライアン・スイート氏は指摘する。
ドイツ銀のルゼティ氏も「2021年について予想されていたテーマはモノからサービスへの個人消費の大転換で、それはある程度実現したものの、モノへの支出は予測を上回っている」と話した。
事態を複雑にしているのは新型コロナ禍が雇用情勢にもたらした影響だ。エコノミストの多くは労働市場のスラック(たるみ)がインフレ懸念の緩和につながると想定していた。ところが、労働参加率の伸び悩みで求人は過去最高水準近くに押し上げられて、賃金は記録的な上昇となった。大企業は労働コストの上昇分を相殺するための値上げに踏み切っている。
このほか、エネルギー価格の上昇もインフレ加速の一因で、ガソリン価格の高騰に連動し、米国民のインフレ期待も上方にシフトしている。
原題:Why Economists Underestimated U.S. Inflation’s Pace, Persistence(抜粋)