中国の元プロテニスプレイヤーである彭帥さん(35)に関する報道が連日メディアを賑わしている。北京オリンピックを約2カ月後に控え、中国政府も相当気を遣っているように見える。対応をひとつ間違えればオリンピックそのものが中止になる可能性もあるだけに、中国政府としても頭が痛いだろう。なぜ、いま、この時期にこの問題が公になったのか、詳しい情報はない。賽の目はどちらに転ぶか分からない。はっきりしているのは中国共産党元最高幹部の超高麗氏にまつわる性的暴力行為が公になったということだ。これに関連して気になっているのは、日本のメディアの扱い方だ。彭帥さんに対して「性的被害を告発した後に消息不明となった」(21日付け日経)、「不倫を告白したテニス選手」(21日付け、毎日)、「同意のない性的関係」(25日付け、読売、朝日)などと表現していることだ。

ニューヨークタイムズを見ると、ホワイトハウスのサキ報道官はこの問題を取り上げる時、「(元中国人プロテニスプレイヤーに関する)sexual assault」と発言している。丹念に調べたわけではないが、ニューヨークタイムズをはじめ欧米のメディアは例外なくこの表現を使っている。「sexual assault」、日本語に訳せば性的暴行、あるいは性的暴力だろう。この言葉を使う以上、合意や同意がないことが前提になっている。朝日新聞は今朝の社説で「文章が彭さん自身によるものなのかも含め、事実関係は不明である。しかし、中国のような一党支配の国家において元高官の持つ権力は極めて大きい。性的関係の強制が本当にあったのか。それを隠蔽(いんぺい)する行為は行われていないのか。中国政府には事実関係を調べ、明らかにする責務がある」と主張している。

WTA(女子テニス協会)のサイモン会長は「(彭帥さんの存在が確認されたあと)懸念は残り、彼女に対する性的暴力の調査を追及していくことに変わりはない」(日刊スポーツ)と、真実究明の覚悟を示した。同会長は中国でのトーナメント中止の可能性にも言及している。この違いを何と言えばいいのだろうか。彭帥さんの告白を見て「これはassaultだ」と断定、真実の究明を求める欧米の政府とメディア。「assault」はあったのかなかったのか、「中国政府は事実関係を調べよ」と求める日本のメディア。ここには中国に対する忖度が見え隠れしていないだろうか。ちなみにIOCのバッハ会長は、習近平主席を擁護しようとする意図が見え見えだ。スポーツ選手を蔑ろにした中国に対する忖度以上の配慮。国際世論は正直だ。サイモン会長の評価が急騰し、バッハ会長は逆に急落している。バッハ会長と中国のためのオリンピックはやめた方がいいかもしれない。