[29日 ロイター] – 新型コロナウイルスの新たな変異株「オミクロン株」とそれがもたらす影響について、科学者が解明を急いでいる。その中で最も重要な疑問の1つに挙げられるのは、オミクロン株が現在世界的に流行の主流を占めるデルタ株に置き換わるのかどうかだ。
世界保健機関(WHO)は26日、その数日前に南アフリカで最初に見つかったばかりのオミクロン株を「懸念すべき変異株」に指定。世界中の研究者と協力してオミクロン株がパンデミックに及ぼす影響の把握を進めており、数日から数週間で新しい発見があるだろうとの見方を示した。
オミクロン株がワクチンの防護機能をすり抜けるのか、あるいは重症化リスクは高まるのかといった多くの疑問は、まだ解き明かされていない。しかし、オミクロン株の広がりが比較的抑えられたままであれば、そうした性質があったとしても懸念の度合いはずっと小さくなる。
ロイターが取材した複数の疾病専門家の話では、オミクロン株がワクチンの効果を弱めると考える確固とした根拠は、既に存在する。
例えば、オミクロン株にはベータ株とガンマ株が持っているワクチンの効き目を減らす複数の重要な変異が、同じように見られる。さらにオミクロン株は特異な変異が26カ所あり、その多くはワクチンの抗体が標的にしている。
もっとも、感染拡大のスピードという面では、デルタ株が他のいかなる変異株よりもずっと急速だった。コーネル大学ウェイル・メディカル・カレッジのジョン・ムーア教授(微生物学・免疫学)は「だからこそ、オミクロン株がデルタ株との比較で、どの程度感染力があるかが問題になる。これはわれわれが知る必要がある非常に重大な要素だ」と指摘した。
ただ、オミクロン株を巡るあらゆる疑問のうち、感染力は最後に答えが分かる部類になりそうだ、と専門家は話す。科学者が今後注視するのは、公共データベースに報告されるデルタ株感染者が、オミクロン株感染者に置き換わり始めるかどうかだ。感染スピード次第になるものの、3─6週間でそれが起きる可能性があるとみられている。
もっと早く得られる情報もあるだろう。ベイラー・カレッジ・オブ・メディシンのピーター・ホテッツ教授(分子ウイルス学・微生物学)は、重症化リスクに関しては2週間以内にもっと理解できるようになると予想した。
現時点では、オミクロン株感染者の症状は極めて軽いという声がある半面、南アの病院で何人か深刻な状態だと伝えられるなど、報告にばらつきがあるという。
オミクロン株がワクチンの防護機能をすり抜けるかどうかの第1弾の手掛かりも、2週間で出てくる、と専門家は見込む。ワクチン接種者や研究用の動物から採取した血液サンプルについて、オミクロン株感染後の抗体を分析することで、最初のデータが得られるからだ。
ムーア氏は「オミクロン株を作り出し、抗体の感度を調べようと積極的に動いている研究室は多い。これは数週間かかるだろう」と説明した。
<スパイク変異の脅威>
コロンビア大学のデービッド・ホー教授(微生物学・免疫学)は、オミクロン株のスパイク(ウイルス表面の突起)における変異場所に基づき、中和抗体への抵抗力はかなり強いだろうとみている。「ワクチンの抗体は新型コロナウイルスのスパイクの3カ所を標的にしており、オミクロン株は3カ所全てで変異している。われわれ生物学の専門家は、(オミクロン株の)構造分析上の知識があるので、公衆衛生専門家よりもずっと心配している」と語った。
一方、ベータ株など以前の変異株にもワクチン効果を弱める変異があったものの、ワクチンは重症化や死亡を防ぐのに役立ったとの意見も出ている。
こうした見解を持つ人々は、ワクチンの中和抗体が働きにくくなったとしても、「T細胞」や「B細胞」といった別の免疫システムが穴埋めしてくれそうだと述べた。
ペン・インスティテュート・フォー・イミュノロジーのジョン・ウェリー所長は「ワクチンは引き続き入院を防いでくれるだろう」と期待する。
現実世界において、オミクロン株に対するワクチン効果が判明するには最低でも3─4週間かかる、とミネソタ大学の感染症専門家マイケル・オスターホルム博士は想定している。ワクチン接種者へのいわゆる「ブレークスルー感染」の比率を調べる必要があるためだ。
コロンビア大学のホー氏は、他のあらゆる変異株との競争を制したデルタ株が存在する中で、オミクロン株が広がっている事実に不安を表明した。
それでも本当に心配すべきかは、まだはっきりしないとの声も聞かれる。ホテッツ氏は、オミクロン株の拡大につながった特異な変異について言えば、アルファ株ないしデルタ株とそれほど大きな違いはないように見えると指摘した。
(Nancy Lapid 記者、Julie Steenhuysen 記者)