コロナ禍以降、世界的な金融緩和で株式市場に投資マネーがあふれる中、日本企業の株価回復が遅れている。世界的な株価指数から日本株を除外する流れが加速しており、このままでは企業の資金調達に影響しかねない。海外企業に比べて少ないと指摘される成長への投資を増やし、マネーを呼び込んでさらなる成長を目指す戦略が問われている。
15社
米金融サービス大手「MSCI(モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル)」は11月、世界の投資家が運用の指標としている株価指数の選定銘柄を見直した。日本勢は15社が除外され、ヤマダホールディングスやカシオ計算機、日本ハムなど著名企業が含まれる。新たな採用はベネフィット・ワンとオープンハウスの2社だけだった。
MSCI指数は約70か国の株式銘柄から選定して算出され、銘柄を年2回入れ替えている。リストから外れることは、「海外マネーが日本から流出すること」(大手証券)を意味する。世界の証券会社は、MSCI指数に連動した投資信託を販売し、資産残高は16兆ドル(約1800兆円)規模に上るためだ。大和証券の試算では、11月の銘柄入れ替えで、投信に組み込まれていた15社の株式は同月末に約2200億円分が売られた。
昨年11月以降3回連続で、MSCI指数の選定から外れる日本企業は2桁に上った。東日本大震災直後の2011年5月に20社が落選して以来の水準となる。
出遅れ
リスト除外の背景にあるのは、日本企業の業績回復の遅れに伴う株価の低迷だ。MSCI指数は株式の時価総額などで銘柄を選定しているとされる。米国を中心に海外市場は緩和マネー流入による相場上昇で時価総額を増やす一方、日経平均株価(225種)は見劣りする。
米ダウ平均株価(30種)と日経平均の今年11月末時点の株価をコロナ禍で最も株価が低迷した20年3月の安値と比べると、日経平均は7割増だったのに対し、ダウは9割増だった。
米国株は、「GAFA」に代表されるように、デジタル化などへの積極投資で成長し、投資家は競って買いを進めた。一方の日本企業は「ため込んだ資金を投資に回さず、成長機会を逃してきたことで稼ぐ力の差が株価に表れている」(アナリスト)と指摘される。
売り越し
直近の円安・ドル高も拍車を掛ける。海外投資家は米ドルに換算した株価を重視する。ドル建ての日経平均は12月に入り今年の最安値を記録した。海外から調達する原材料価格の高騰は、円安でさらなる収益の圧迫要因と見なされている。
東京証券取引所の売買高の7割は海外投資家が占め、昨年は海外投資家の売りが買いを3・3兆円上回る流出超だった。今年も11月最終週だけで約2500億円もの売り越しとなった。
脱炭素対応の資金需要も高まっている。海外投資家の目が向かなければ、株式市場からの資金調達に支障が出る恐れがある。
企業への投資を呼び込む環境づくりに向けて、政府の支援も欠かせない。米国に比べ、日本の成長分野への財政支出は低水準にとどまる。ニッセイ基礎研究所の井出真吾上席研究員は「企業単独ではリスクが大きい分野に国が予算を付けるなどして、成長が期待できる分野に企業が進出しやすい環境を整えることが重要だ」と指摘する。