【ワシントン時事】バイデン米大統領は9、10両日に「民主主義サミット」を開催し、公正な選挙の重要性を訴えた。しかし米国内ではこれに逆行するように、有権者の投票機会を制限する州法制定の動きが各地で広がる。民主主義の「盟主」の足元で、国民主権の土台となる選挙の正当性が揺らいでいる。
ニューヨーク大ブレナン司法センターによると、1~9月にかけて少なくとも19の州が投票の障壁づくりにつながる法律を成立させた。郵便投票の厳格化や投票時間の短縮、身元確認の強化など、あの手この手で投票のハードルを上げる内容だ。
19州はテキサスやジョージアなど、知事や州議会多数派が共和党の州が中心。各州は「投票の不正防止」を立法の理由に挙げるが、実態は有色人種を標的にした投票制限が狙いと指摘される。サービス業に従事する割合が高い黒人やヒスパニック系は日中に投票しづらく、郵便投票や期日前投票を利用することが多いためだ。
米国では、民主党支持者が多い有色人種の割合が増えている。各州の動きには、共和党が生き残りを懸けて選挙制度を自らに有利な形に作り替える狙いが透けて見える。
バイデン政権は今のところ、こうした動きを食い止める決定的な手段を持たない。司法省は投票制限をめぐり複数の州を提訴した。しかし、保守派判事が多数を占める最高裁は、同省の訴えを退ける可能性がある。
与党民主党は各州の動きに対抗し、投票権擁護法案2本を連邦議会に提出したが、いずれも共和党が反対。バイデン氏は民主主義サミットの演説で二つの法案を取り上げたものの、「成立に向けて闘い続ける」と訴えるだけだった。
トランプ前大統領支持者らは1月、昨年の大統領選結果を覆そうと連邦議会議事堂を襲撃した。共和党支持者には、いまだにトランプ氏が勝利したと信じている有権者も少なくない。政府間組織「民主主義・選挙支援国際研究所(IDEA)」(本部・ストックホルム)は今年、米国を初めて「民主主義が後退している国」に分類した。