[東京 18日 ロイター] – 日銀の黒田東彦総裁は18日の金融政策決定会合後の会見で、消費者物価指数(除く生鮮食品、コアCPI)の前年比が2023年度にかけて1%程度の上昇率にとどまると予想される中、「現在の金融緩和を修正する必要は全くない」と述べた。2%の物価安定目標を達成するまで現在の緩和策を粘り強く続けていく考えを改めて示し、市場の一部で浮上していた金融緩和修正観測を否定した。
<金融政策の変更、「全く考えず」>
日銀は同日発表した最新の「経済・物価情勢の展望」(展望リポート)で、2022年度と23年度の消費者物価指数(除く生鮮食品)上昇率見通しの中央値を引き上げたが、いずれもプラス1.1%と日銀が目標として掲げる2%にはなお距離がある。
黒田総裁は、2%まで遠い状況下で「利上げとか現在の緩和的な金融政策を変更するというようなことは全く考えていないし、そうした議論もしていない」と語った。
日銀は今回の展望リポートで物価見通しのリスクバランスを「おおむね上下にバランスしている」と表記し、14年10月以降継続してきた「下振れリスクの方が大きい」との表現から変更した。
総裁は、前回展望までは感染症や海外経済に起因する下振れリスクに加え、物価が上がりにくいことを前提とした企業慣行や考え方が根強く残る中、下振れ方向を強く意識する見方が大勢だったが、今回は最近の企業物価の上昇や日銀短観におけるインフレ予想の高まりを踏まえ、上振れ方向へのリスクも意識する必要があるという考えに至ったと説明した。
その上で、物価見通しのリスクバランスの評価が変わったとはいえ「直ちに2%に近づく状況は考えにくい」と述べ、リスクバランスの変更に伴う政策修正思惑を否定した。
<物価が安定的に2%達成するまで緩和維持>
日銀は決定会合後に公表した声明文で、当面は新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、必要なら躊躇なく追加緩和を講じると改めて表明。政策金利は「現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準」との文言も変えなかった。
黒田総裁は「必要ならさらに長短金利を引き下げるということをコミットしている」と述べた。物価上昇率が安定的に2%を達成するまでそうするのかとの質問に「そうだ」と答えた。
足元の物価上昇は国際商品市況の上昇波及などが要因。黒田総裁は「商品価格の一時的な上昇を金融政策で止めるのは適切でない」と述べた。賃金と物価がともに上昇する姿が望ましく「そういった意味で2%が持続的に達成される状況になれば、当然、金融政策の正常化や出口の議論になると思うが、今のところそういった状況は全く想定されない」と述べた。
黒田総裁は「強力な金融緩和を粘り強く続けていくことで、企業収益の増加や労働需給の改善を促し、賃金と物価が持続的に上昇していく好循環の形成を目指していく」と語った。
<政策修正、必要なのは政治の「助け舟」か>
総裁会見を受け、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の六車治美シニア・マーケットエコノミストは「今後の経済や物価の状況次第で認識も変わるとは思うが、少なくとも今日の段階では、安定的な物価2%目標達成前に政策修正する可能性はかなり低いというメッセージが伝わってきた」と指摘。
「足元の為替状況も悪い円安ではないとしており、政治サイドから明確な政策修正を求めるような『助け舟』が出ない限り、早期の政策修正は難しいだろう」と話した。
黒田総裁は会見で、為替市場での円安について「全体として経済にプラスに作用しているという基本的な構図に変化はない」と述べ、「悪い円安とは考えていない」と話した。
(和田崇彦、杉山健太郎)