佐渡金山の採掘跡通路=令和2年12月、新潟県佐渡市(本田賢一撮影)
佐渡金山の採掘跡通路=令和2年12月、新潟県佐渡市(本田賢一撮影)

岸田文雄首相は文化審議会が世界文化遺産の国内推薦候補に選んだ「佐渡島の金山」(新潟)について、国連教育科学文化機関(ユネスコ)に推薦する方向で最終調整に入った。政府高官が28日、明らかにした。韓国が戦時中に朝鮮半島出身者らへの「強制労働」があったなどと反発を強め、外務省が見送る方向で調整に入っていたが、自民党内や地元の意見も踏まえた。

首相は同日午後にも官邸で林芳正外相や末松信介文部科学相と協議し、決定する意向だ。さらに、その後記者団に推薦の理由などを説明する。

佐渡金山は昨年末に文化審議会が令和5年の世界文化遺産登録に向け、国内候補に選んだ。同年に審査を受けるためには2月1日までにユネスコに推薦書を提出する必要があったが、韓国外務省は朝鮮半島出身者がかつて「強制労働させられた被害の現場だ」などとして即刻撤回を求めた。

政府内では、韓国が3月に大統領選を控えており、「反日」的な主張を展開する候補者に利用される懸念もあったことから外務省が今年度の推薦は見送る方向で調整に入り、自民党重鎮への根回しも始めていた。

ところが、自民党内の保守系議員からはこうした外務省の態度に反発が上がった。最大派閥の安倍派を率いる安倍晋三元首相は20日の同派会合で「論戦を避ける形で申請をしないというのは間違いだ。ファクトベースで反論していくことが大事だ」などと批判した。高市早苗政調会長も24日の衆院予算委員会で「国家の名誉にかかわる事態だ。必ず今年度に推薦を行うべきだ」などと政府側に迫っていた。

首相はこの間、安倍氏らとも連絡を取りつつ、情勢を見極めていたが、地元・新潟からも「棚上げや先送りはしないでもらいたい」(花角英世知事)との声が寄せられたこともあり、地元の意向を尊重することに決めた。推薦を見送った場合、韓国側に配慮したととられ、今夏の参院選に影響を与えかねないとの判断も働いたとみられる。