オミクロン株による感染急拡大は全国各地に及んでいます。
重症化リスクは低いとはいえ、入院患者数や亡くなる人の数も増加し、病床のひっ迫も各地で深刻な状態に近づいています。
当初は、感染が急激に拡大したあと、急激に下がるという観測もありましたが、先に感染が拡大した沖縄の様子をみると、感染が下がるペースはゆるやかです。
また、オミクロン株のうち、異なる系統のウイルス「BA.2」は今後、感染状況に影響を与えるのか。
感染のピークは見えてくるのか、感染者が多い状態はどれだけ続くのか。
わかってきたことをまとめました。
(2022年2月2日現在)
初期症状 せきやのど、鼻の症状も
一日に報告される全国の感染者数は、連日過去最多を更新し続けています。
国内で検出される新型コロナウイルスのうち、オミクロン株の疑いがあるウイルスは1月30日までの時点で全国で99%と、ほぼオミクロン株に置き換わったとみられます。
オミクロン株では、これまでのデルタ株などとは症状の傾向が異なることが分かってきています。
国立感染症研究所は1月24日時点で、新型コロナウイルスの感染者情報を集約するシステム「HER-SYS」に登録された3600人余りのデータをもとにまとめました。
それによりますと、届け出の時点でオミクロン株でみられる症状は
▽発熱が66.6%、
▽せきが41.6%、
▽全身のけん怠感が22.5%、
▽頭痛が21.1%、
▽せき以外の呼吸器症状が12.9%、
▽吐き気やおう吐が2.7%、
▽下痢が2.3%などとなっています。
これまで、新型コロナウイルスで特徴的にみられた嗅覚障害や味覚障害を訴えた人は0.8%でした。
また、国立感染症研究所が122人について疫学調査で詳しく調べた結果でも、
▽せきが45.1%、
▽37度5分以上の発熱が32.8%、
▽のどの痛みが32.8%、
▽鼻汁が20.5%で、
嗅覚障害や味覚障害はそれぞれ1%前後でした。
のどの痛みを訴える人がこれまでより多く、においや味がしないと訴える人が少ないとされています。
また、鼻水や鼻づまりの症状もあることから、日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会は、毎年花粉症で悩まされている人は、症状が出る前に早めに医療機関を受診しておくよう呼びかけています。
急拡大でも、減少スピードは緩やか
オミクロン株では潜伏期間が短いほか、「世代時間」と呼ばれる「ある人が感染してからほかの人に感染させるまでの期間」もおよそ2日と短く、短時間のうちに次々と感染させるため、急速に感染が広がっているのではないかと考えられています。
その分、感染が減少する局面では急速に減少するのではないかという観測もありました。しかし、必ずしもそうとは言えない状況になってきています。
イギリスでは、1週間の新規感染者数が、1月10日前後には100万人を超えたあと、1月18日までの1週間はおよそ67万4000人と、前の週と比べておよそ40%減少しました。
しかし、その後は、ほぼ横ばいが続き、2月1日までの1週間でも63万8000人余りとなっています。
国内で先に感染が拡大した沖縄では、これまで一日の感染者数が最も多かったのは、1月15日の1829人で、そのとき人口10万人当たりは700人近くとなっていました。
その後、やや減少していますが、2週間以上たっても人口10万人当たりでは400人以上で、デルタ株が広がった2021年夏のピークより多い状態が続いています。
感染が急拡大したスピードと比べて、減少のスピードはゆるやかになっています。
厚生労働省の専門家会合は1月26日「今後も少なくとも短期的には全国で感染拡大が継続すると考えられる」としています。
重症化リスク↓も 医療ひっ迫現実に
WHO=世界保健機関は、オミクロン株では、鼻やのどといった上気道の炎症を引き起こしやすいものの、肺まで達して重症化するリスクはほかの変異ウイルスより低いとしています。
ただ、感染者数が非常に多いため、多くの国で入院者数は急増していて、医療体制がひっ迫しているとして、警戒を呼びかけています。
日本国内でも、あまりにも感染者の数が多いことから、重症化する人や亡くなる人も増え、医療のひっ迫も現実になりつつあります。
国内で最も早い時期に感染が広がった沖縄県では、重症化リスクのある高齢者に感染が広がってきていて、感染者に占める60代以上の割合は、1月30日までの1週間で18.6%と徐々に上昇してきています。
病床の使用率は日に日に上がってきていて、2月1日時点で、大阪府では69%、沖縄県では67%、東京都では50.7%などとなっています。
沖縄県では、重症者用の病床使用率が33.6%となっています。
アメリカのCDCは1月25日、従来の新型コロナウイルスが拡大した2021年1月ごろと、デルタ株が拡大した2021年8月ごろ、そしてオミクロン株が拡大した今回とで、大規模なデータベースをもとに医療の状況を比較した報告を公表しました。
それによりますと、1週間平均の感染者数のピークは
▽従来株が拡大した時期ではおよそ25万人、
▽デルタ株の時期は16万4000人でしたが、
▽オミクロン株の時期、2022年1月中旬は80万人近くで数倍規模となっていました。
一方、入院患者数のピークは、
▽オミクロン株の時期は1週間平均でおよそ2万1600人と、
▽従来株の時期のおよそ1万6500人、
▽デルタ株の時期のおよそ1万2300人より多くなっています。
オミクロン株の時期では18歳未満が大幅に増えていて、従来株の時期の4.4倍、デルタ株の時期の2.87倍になっています。
亡くなった人の数のピークは、
▽オミクロン株の時期は1週間平均で1854人で、
▽従来株の時期の3422人、
▽デルタ株の時期の1924人よりは少なくなっていました。
CDCは、重症度は低いものの、入院患者などが多くなっていて、医療体制に負荷がかかり、死亡者数も相当な数になっているとしています。
イギリスの保健当局によりますと、オミクロン株に感染して入院に至るリスクは、デルタ株の場合に比べて3分の1になっているとしています。
ただ、イギリスでは3回目の追加接種を受けた人が2022年1月31日の時点で64.9%に上っていて(12歳以上)、2月2日時点で全人口の4.0%にとどまっている日本とは状況が異なるため、注意が必要です。
死者の数も世界で増加
イギリス・オックスフォード大学の研究者などが運営するウェブサイト、「Our World In Data」によりますと、一日当たりの死亡者数は、2月1日までの1週間には、
▽アメリカで2500人余り、
▽フランスではおよそ260人、
▽日本では45人などとなっています。
デルタ株の時期では、
▽アメリカでは2021年9月下旬のおよそ2000人、
▽フランスでは8月下旬のおよそ110人がピークで、現在は当時の水準を超えています。
また、日本でもデルタ株の時期の2021年9月8日には89人が亡くなったと報告されましたが、2022年2月1日は70人の死亡が報告され、決して楽観できる状況ではありません。
オミクロン株が派生?「BA.2」でわかってきたこと
オミクロン株の系統の1つで「BA.2」と呼ばれる変異ウイルスの状況も気になるところです。
現在、世界中で感染が広がっているオミクロン株「BA.1」では、ウイルスの表面にある突起部分「スパイクたんぱく質」の一部に欠けている部分がありますが「BA.2」ではこの欠けている部分がないことが分かっています。
ヨーロッパでは、この部分を目印にしてオミクロン株を検出しているので、「BA.2」を見つけられないこともあるとされ「ステルス・オミクロン」などという呼び方をするメディアもあります。
一方、日本では別の部分「L452R」という変異があるかどうかで調べています。
この変異はデルタ株などに見られるもので、オミクロン株にはありません。
現在、国内で見つかる新型コロナウイルスは、デルタ株かオミクロン株なので、この変異がないウイルスが見つかれば「オミクロン株疑い」として、詳しい遺伝子検査を行ってオミクロン株かどうか調べるという方法をとっています。
このため、日本の検査では検出できるため、日本では「ステルス・オミクロン」という言い方は当たらないとされています。
日本国内では、インドやフィリピンに渡航歴がある人から、このウイルスが検出されているということです。
「BA.2」デンマークからの情報 ~より広がりやすい可能性~
デンマークの保健当局のもとにある研究所によりますと、「BA.2」は2021年の年末の1週間ではデンマーク国内で検出される新型コロナウイルスの20%ほどだったのが、2022年1月中旬の1週間では45%ほどになったとしています。
また、1月31日には、2021年1月中旬までのおよそ1か月間の、デンマークでの家庭での感染について分析した結果を公表。
家庭内で二次感染する率は「BA.1」では29%、「BA.2」では39%だったとして、より広がりやすい可能性があるとしています。
「BA.2」イギリスからの情報 ~ワクチン効果に違いなし~
イギリスの保健当局は「BA.2」を「調査中の変異ウイルス」に位置づけています。
1月28日に示したデータでは、24日までに1072件見つかっていて、初期の段階のデータで過大評価されている可能性はあるものの、「BA.1」より感染が広がるスピードは速いとみられるとしています。
ワクチンによって発症を防ぐ効果は、
▽2回接種から25週以上、およそ半年以上たったあとでは「BA.1」では9%だったのが「BA.2」では13%、
▽3回目の追加接種から2週間たった後では「BA.1」の63%に対し「BA.2」では70%で、ワクチンの効果に違いはなかったとしています。
さらに、感染した場合の重症度についてはデータがなく、さらに分析を進めるとしています。
「BA.2」が感染の拡大にもたらす影響についても各国で調査・分析が続けられていて、これまでのところ結論は出ていません。
ワクチン追加接種で入院リスク大幅↓
オミクロン株でも、ワクチンの追加接種で効果があると考えられていますが、1月21日には、アメリカのCDC=疾病対策センターが、入院を防ぐ効果はオミクロン株に対しても90%に上昇するという分析結果を公表しました。
ファイザーやモデルナの「mRNAワクチン」の2回目の接種から6か月以上たった場合、入院を防ぐ効果は、デルタ株が優勢だった時期に81%だった一方、オミクロン株が優勢になった時期には57%でした。
しかし、3回目の接種のあとではデルタ株の時期は94%、オミクロン株の時期は90%に上昇したということです。
また、ワクチンの追加接種を受けていない人では、追加接種を受けた人に比べて入院する割合は大幅に高く、50歳から64歳で44倍、65歳以上で49倍になるという分析も合わせて公表しています。
CDCは、症状の悪化を防ぐためには3回目の接種が重要で、未接種者はできるだけ早くワクチンを接種する必要があるとしています。
子どもの感染拡大 各国で懸念
オミクロン株では、これまで少なかった子どもでの感染拡大も続いています。
厚生労働省のウェブサイトによりますと、10歳未満の新規感染者数は、2021年12月28日までの1週間では149人でしたが、2022年1月4日まででは353人、1月11日まででは2238人、1月18日まででは1万2947人、1月25日まででは4万1863人と急増しています。
アメリカでは、2022年1月の1か月間で350万人以上の子どもの感染が確認されました。
1月27日までの1週間の子どもの新規感染者数は80万人余りで、その前の1週間のおよそ115万人よりも減少しましたが、それでもデルタ株の時期のピークのおよそ3倍となっています。
アメリカ小児科学会は、子どもで症状が重くなり入院に至る率は0.1から1.5%、死亡率は0から0.02%だと報告しています。
日本国内では、ワクチンの接種対象の年齢が5歳までに引き下げられました。
ファイザーの臨床試験では、5歳から11歳での発症を防ぐ効果は90.7%で、接種後に出た症状もおおむね軽度から中程度だったとしています。
これまでの変異ウイルスとの比較
感染力や病原性など、いま分かっていることをWHOや国立感染症研究所、各国の公的機関などの情報をもとに、ほかの「懸念される変異株=VOC」と比較する形でまとめました。
『アルファ株』(2020年12月 イギリスで最初に報告)
『ベータ株』(2020年12月 南アフリカで最初に報告)
『ガンマ株』(2021年1月報告 ブラジルで拡大)
『デルタ株』(2020年10月 インドで同じ系統が最初に報告)
『オミクロン株』(2021年11月 南アフリカが最初に報告)
▼感染力
『アルファ株』↑
『ベータ株』↑
『ガンマ株』↑
『デルタ株』↑↑
『オミクロン株』↑↑↑
WHOの週報では、家庭内での「2次感染率」はデルタ株の21%に対し、オミクロン株は31%だったとする、2021年12月のデンマークでの分析結果を紹介しています。
アメリカのCDC=疾病対策センターは、オミクロン株の感染力は最大でデルタ株の3倍とするデータがあるとしています。
▼病原性
『アルファ株』入院・重症化・死亡のリスク高い可能性
『ベータ株』入院のリスク・入院時の死亡率高い可能性
『ガンマ株』入院・重症化のリスク高い可能性
『デルタ株』入院のリスク高い可能性
『オミクロン株』入院・重症化リスク低い
オミクロン株では、入院に至るリスクや重症化リスクがデルタ株に比べて低いとされています。
ただ、感染拡大の規模が大きく、入院者数や重症化する人も増えていて、医療機関への負荷は大きくなっています。
▼再感染のリスク
『アルファ株』ウイルスを抑える抗体の働きは維持、再感染のリスクは従来株と同じか
『ベータ株』ウイルスを抑える抗体の働きは減る、ウイルスを攻撃する細胞の働きは維持
『ガンマ株』ウイルスを抑える抗体の働きはやや減る
『デルタ株』ウイルスを抑える抗体の働きは減る
『オミクロン株』再感染のリスク上がる
WHOでは、ワクチンや過去の感染によって免疫を持つ人でも再感染しやすくなる変異があるとしています。
イギリスのインペリアル・カレッジ・ロンドンは、オミクロン株の再感染のリスクは、デルタ株に比べて5.41倍と高くなっているとする報告を出しています。
▼ワクチンの効果(ファイザー・モデルナのmRNAワクチン)
『アルファ株』感染予防・発症予防・重症化予防ともに変わらず
『ベータ株』発症予防・重症化予防ともに変わらず
『ガンマ株』感染予防・発症予防・重症化予防ともに変わらず
『デルタ株』感染予防・発症予防・重症化予防ともに変わらず(感染予防・発症予防は下がるという報告も)
『オミクロン株』発症予防効果低下・重症化予防効果はあるという報告も 3回目接種で発症予防効果・重症化予防効果も上がる報告も
イギリスの保健当局のデータでは、オミクロン株に対しては、ファイザーやモデルナのmRNAワクチンで、2回の接種から20週を超えると10%程度に下がっていましたが、ファイザーかモデルナの追加接種をすると、2週間から4週間後には発症を防ぐ効果は65%~75%に上がりました。
重症化して入院するリスクを下げる効果は、発症を防ぐ効果より高くなっています。
ファイザーやモデルナ、それにアストラゼネカのワクチンを接種した人で分析すると、入院に至るのを防ぐ効果は、2回の接種後2週間から24週間では72%、25週を超えても52%、3回目の追加接種をしたあと、2週以降だと88%となっていました。
▼治療薬の効果
重症化を防ぐために感染した初期に投与される「抗体カクテル療法」は、効果が低下するとされ、厚生労働省はオミクロン株では投与を推奨しないとしています。
一方で、軽症患者用の飲み薬「ラゲブリオ(一般名モルヌピラビル)」や中等症以上の患者用の「レムデシビル」など、ウイルスの増殖を防ぐ仕組みの飲み薬には影響が出ないと考えられています。
また、WHOは、重症患者に使われる免疫の過剰反応を防ぐ薬やステロイド剤は、引き続き効果が期待されるとしています。
専門家は
海外の感染状況に詳しい、東京医科大学の濱田篤郎特任教授は「感染者数が増え、その中で重症化して死亡する人も一定程度出ていて、いま、アメリカでは毎日2000人以上が亡くなっている。感染者数から考えると亡くなる人の割合は0.5%ほどになり、インフルエンザよりは明らかに高い。亡くなる人が増えるピークは感染者数のピークより遅くなるのはこれまでも経験していることで、日本でも今後、亡くなる人が増えるおそれがある。感染者数が少なくすめば、亡くなる方も少なく抑えられるので、感染の拡大で重症化する人も増えることを考えながら対策を取ることが大切だ」と話しています。
対策は変わらない
私たちができる対策はこれまでと変わりませんが、専門家は今の感染急拡大の状況の中で、対策をより徹底するよう呼びかけています。
オミクロン株の感染経路もこれまでと変わらず、飛まつや「マイクロ飛まつ」と呼ばれる密閉された室内を漂う小さな飛まつが主で、ウイルスがついた手で鼻や口などを触ることによる接触感染もあります。
国立感染症研究所が1月13日に出した疫学調査の結果では、オミクロン株でも、飲食店での職場同僚との忘年会や、自宅での親族との会食など、飲食を通じた感染が見られたほか、職場での密な環境での作業を通じて感染するケースも報告されています。
政府分科会の尾身会長は、マスクを外した状況や「鼻マスク」など着用が不十分な状況での感染が思っていたよりもはるかに多いとして、不織布マスクで鼻までしっかり覆ってほしいと呼びかけています。
厚生労働省の専門家会合も、ワクチン接種に加えて、特に会話時などでのマスクの着用、消毒や手洗い、換気や密を避けるといった基本的な対策を続けるよう呼びかけています。