4日に開幕した北京冬季五輪は、スキージャンプ個人ノーマルヒルで小林陵侑選手(25)が優勝、国内的には早くも盛り上がりを見せている。こうしたアスリートの活躍とは別に4日の開会式で、ウイグル人の女子アスリートが聖火点灯の最終ランナーの一人に選ばれたことが場外で物議を醸している。ウイグル人に対する弾圧など人権侵害を理由に、米国をはじめ西側諸国の多くが北京五輪を外交的にボイコットしている。そんな中で中国ならびに国際オリンピック委員会(IOC)は聖火の最終ランナーにあえてウイグル族のアスリートを選んだ。これは何を意味しているのか。米国が「人権問題から目を逸らそうとする試みだ」(米国連大使のリンダ・トーマスグリーンフイールド)と批判すれば、中国は北京五輪を「政治問題化しようとしている」と逆批判する。個人的には五輪運営自体が政治問題化している気がする。

中国側の主張をまず紹介しよう。日経新聞が掲載した共同通信の記事によると、この問題に関して大会組織員会幹部は次のように説明している。「若い世代への伝承を表現した。関連部門と話し合って選び、国際オリンピック委員会(IOC)の承認を得た」。幹部氏の実名は明らかではないが、あえてウイグル人を起用した説明としては説得力に欠ける。そしてIOCのアダムス広報部長は「どんな経歴の選手でも聖火リレー走者を務める資格がある」と話す。一般論としてはその通りだが、西側諸国の多くがウイグル人などに対する人権弾圧を理由に外交的ボイコットを実施している中で行われるオリンピックだ。一般論ではダメだ。あえてウイグル人を起用した理由と、それに同意したIOCの論拠を説明すべきだ。これが西側諸国で生活する一般庶民の普通の感覚ではないだろうか。

米国連大使は「私たちはあそこ(ウイグル自治区)でジェノサイドが行われていることを知っている」とまで言っている。IOCにはこうした発言を含めた説明責任が求められている。今回の人選は大会組織委員会だけで決められるような問題ではない。だから「関連部門と話し合って」ウイグル人の起用を決めたのだろう。推測するに関連部門の最高責任者は一人しかいない。習近平国家主席その人だ。妄想するに習主席は聖火点灯式を、西側諸国の人権弾圧批判を批判するために、あるいは開かれた中国・共に歩むウイグル族を演出するために利用しようとしたのではないか。人権弾圧を理由とした外交的ボイコットという五輪の政治化に対抗、世界中が注視する聖火点灯の1点をウイグル人で劇場化した。だがこれは中国が否定する「五輪の政治化」以外のなにものでもない。習主席は自らの思考回路の浅ましさを露呈した。