新型コロナウイルスワクチンの3回目接種をめぐり、岸田文雄首相が「1日100万回」を目指すと宣言した。当初は菅義偉前首相が用いた数値目標設定の手法に消極的だったが、接種率の伸び悩みが続き、転換を迫られた形だ。政権批判が広がり始めたことへの焦りもあるようだ。
「2月のできるだけ早期に1日100万回を目指す。全力で当たってほしい」。首相は7日朝、関係閣僚10人を国会内に集め、こう指示した。閣議などのない日では異例の動きだ。首相はこの後の衆院予算委員会で「目標は決して低くない。しかし、何としても達成したい」と強調した。
菅氏は昨年5月に1日100万回の目標をぶち上げ、東京五輪前の接種加速に半ば強引につなげた経緯がある。今回も与野党から同様の対応を求める声が早くから上がったが、首相は一貫して慎重だった。2日の衆院予算委でも「一律に何万人と目標を掲げることが適切か」と疑問視していた。
首相がわずか数日で姿勢を一変させたのは、「接種停滞への焦り」(自民党関係者)からだ。日本の3回目接種率は7日時点で5.9%。英オックスフォード大研究者らの集計によると先進7カ国(G7)で最下位。韓国や台湾からも遅れる。
感染第6波の収束が見通せない中、報道各社の世論調査では堅調だった内閣支持率が下がり始めた。政府関係者の一人は「世論が厳しくなってきたことを踏まえた目標設定だ」と明かした。
もっとも、1日100万回を達成できるかは定かでない。接種前倒しに関する政府の方針が二転三転したこともあり、自治体の現場は混乱。変異株「オミクロン株」は重症化率が低いことから、国民の間で危機感が薄く、副反応を懸念して米モデルナ製ワクチンを忌避する傾向もあるとされる。
100万回を達成できたとしても、その時期は「2月後半」(首相)。7日時点の3回目接種完了者が746万人にとどまることを考えれば、これまで想定してきた2月末時点の3746万人には遠く及びそうにない。
野党は批判を強める。立憲民主党の大串博志氏は7日の衆院予算委で、接種回数が菅政権時代に1日170万回に一時達したことを挙げ、「岸田政権の目標は極めてレベルが低い」と指摘。「後手に回っている。手ぬるい」と批判した。
与党からも厳しい声が上がる。自民党の閣僚経験者は「岸田さんにできるのか」と指導力に疑問の目を向ける。公明党幹部は「支持率は何かあれば、すぐに崩れ落ちかねない危険をはらむ。今はその瀬戸際だ」と語った。