[東京 3日 ロイター] – 日産自動車の元会長カルロス・ゴーン被告(67)の役員報酬を過小に記載したとして、東京地裁は3日、金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の罪に問われた元代表取締役グレッグ・ケリー被告(65)に懲役6カ月、執行猶予3年(求刑は懲役2年)、両罰規定に基づき法人として起訴された日産には求刑通り罰金2億円を言い渡した。一方で、犯行はゴーン被告の利益のために行われたとして、主犯はゴーン被告だと断定した。
事件の「主役」であるゴーン被告は公判が始まる前の2019年末、日本から不正に出国し、国籍を持つレバノンに逃亡中。世界に大きな衝撃を与えた経済事件は主役不在のまま、司法判断が下された。
起訴状などによると、ケリー被告はゴーン被告と共謀し、2010年度から17年度の8年分のゴーン被告の役員報酬について、実際は計約170億円だったにもかかわらず日産の有価証券報告書には約91億円少なく記載した。主な争点は、本来は有価証券報告書に記載すべき「未払い報酬」の存否、ゴーン被告との共謀の有無だった。
判決では、10─17年度全てで開示義務のある未払いの報酬は「存在した」と認定し、記載すべきは支払い済みの報酬だけでなく、未払いの報酬も含む総額だったとした。ケリー被告については、未払い報酬を認識していたことを裏付ける証拠のある17年度分のみを虚偽記載と認め、10―16年度分は無罪とした。ゴーン被告と元秘書室長の大沼敏明氏は8年間分全てで虚偽記載をしたと認定した。大沼氏は検察との司法取引に応じ、捜査協力の見返りとして不起訴となっている。
東京地裁の下津健司裁判長は、ゴーン被告と元秘書室長は未払い報酬の開示義務を認識しており、ゴーン被告が高額報酬を確保しつつ自らの保身を図ろうとする「私利私欲」が動機だったと説明した。日産については、同被告による長期の独裁体制下で醸成された日産の「企業体質」が事件の要因と指摘。同社のガバナンス機能不全が長期にわたるゴーン被告の身勝手な犯行を許したとし、「まさに『身から出たさび』というほかない」と批判した。
一方、ケリー被告の関与を証言した元秘書室長らは司法取引に応じており、「検察の意向に沿うような供述をする危険性をはらむ」とも指摘。ゴーン被告への未払い報酬の支払いを確認した合意文書にケリー被告が関与したなどとする同室長らの証言には「証拠が存在せず信用できない」と判断し、ケリー被告の共謀は10─16年度分は否定。証拠の存在する17年度のみの共謀を認定した。
判決を受けてケリー被告はコメントを出し、「私は一貫して、日産の最善の利益を考え行動しており、違法行為に関与した事実は一切ない。裁判所が、大半につき無実としたものの1年分についてだけ有罪としたことは理解できない」とし、全てについて無罪だと訴えた。ケリー被告の弁護団は判決を不服とし、控訴する方針を明らかにした。
東京地裁は、ケリー被告の責任は軽視できないとしつつも、犯行はゴーン被告の利益のために行われており、ケリー被告には直接的な利得はなかったとし、本件の主犯はゴーン被告だと断定した。
公判は20年9月に始まって以降、60回以上に及び、ケリー被告は一貫して無罪を主張していた。同被告は米国人で、ラーム・エマニュエル駐日米国大使は「ケリー一家にとって長い3年間だったが、この章は終わった。法的手続きが終了し、ケリー夫妻が帰国できることに安堵している」などとする声明を出した。
検察側は、開示義務のある未払い報酬がありケリー被告がその支払い方法を検討する役割を担っていたと主張。一方、弁護側は、未払い報酬は存在せず共謀を示す証拠もなく、検察との司法取引に合意した元秘書室長らのケリー被告の関与をめぐる証言も信用できないとしていた。日産の弁護側は起訴内容を認めていた。