9日投票が行われた韓国大統領選挙で、保守系の最大野党のユン・ソギョル氏が当選し、5年ぶりに保守政権が誕生する見通しとなりました。

ユン氏は「国民の皆さんが導いてくれたように、私も国民だけを見つめ国民に仕える」と述べて勝利宣言しました。

韓国のムン・ジェイン大統領の任期満了に伴う第20代大統領選挙の投票は、9日夜7時半に締め切られ、10日朝まで開票作業が続けられました。

中央選挙管理委員会によりますと、10日午前6時すぎに開票率が100%となり、得票率は、
▽保守系の最大野党「国民の力」のユン・ソギョル氏が48.56%、
▽革新系の与党「共に民主党」のイ・ジェミョン氏が47.83%となっています。

公共放送のKBSは午前4時半すぎ、出口調査の結果や開票状況などに基づいて「ユン氏が当選した」と伝えました。

ユン氏はソウル出身の61歳。

2019年にムン・ジェイン大統領によって検察トップの検事総長に抜てきされましたが、ムン大統領の側近をめぐる疑惑を徹底追及したことなどから政権との対立を深め、去年3月に辞任しました。

政治経験はないものの、選挙戦で「真の公正な社会」を実現するとして政権交代を訴えて支持を広げました。

さらに終盤になって、3番手だった中道系野党のアン・チョルス氏との間で候補者の一本化にこぎ着けました。

今回の選挙戦は、ムン政権を厳しく批判し「無能な政権を審判すべきだ」と政権交代を呼びかけたユン氏と、地方行政を率いた実績を強調し「有能な経済大統領になる」と訴えたイ氏が競り合う展開になりましたが、ムン政権への批判票を取り込んだユン氏がイ氏との接戦を制し、5年ぶりに保守政権が誕生する見通しとなりました。

ユン氏は午前4時20分ごろ、ソウル中心部に設けられた開票状況を見守る陣営の会場であいさつし「この結果は、私やわが党の勝利というよりは、偉大な国民の勝利ではないか」と述べて、勝利宣言をしました。

その後、党本部の前に集まった支持者に向けて「国民の皆さんが導いてくれたように、私も国民だけを見つめ国民に仕える。政権交代のために最善を尽くしてくれた皆さんに感謝する」と述べました。

一方、イ氏はソウルの国会近くにある党の本部で記者団に対して「最善を尽くしたが、期待に応えられなかった。党員や支持者に申し訳ないし、感謝の気持ちを伝えたい。すべての責任は私にある。ユン候補にもお祝いを言いたい」と述べて、敗北宣言をしました。

※ユン・ソギョル(尹錫悦) ムン・ジェイン(文在寅) イ・ジェミョン(李在明) アン・チョルス(安哲秀)

ユン氏 若い世代を中心に批判票を集める

ユン・ソギョル氏が勝利した背景には、不動産価格の高騰などでムン・ジェイン政権に対する韓国国民の不満が高まる中、若い世代を中心にした政権与党への批判票を集めたことがあるとみられます。

ユン氏は、検察トップの検事総長として、ムン大統領の側近の不正疑惑を徹底追及するなどした結果、政権との対立を深めて去年3月に辞任すると、政界入りを待望する声に押されて最大野党に入党しました。

政治経験がなかったユン氏ですが、選挙戦では、みずからが真っ向から対じしたムン政権を厳しく批判し「無能な政権を政権交代によって審判する。真の公正な社会をつくる」として、5年ぶりの政権交代の実現を訴えました。

また、不動産価格の高騰や厳しい就職状況などでムン政権に対する韓国国民の不満が高まる中、無党派層の多い若い世代から人気のある36歳のイ・ジュンソク党代表と足並みをそろえ、SNSなども積極的に活用して支持を呼びかけました。

さらに、中道系野党から立候補し支持率で3位につけていたアン・チョルス氏との間で、選挙戦最終盤に入ってユン氏に候補者を一本化することで合意したことによって、政権与党への批判票を集める形となりました。

イ氏「最善を尽くしたが期待に応えられず」

一方、イ氏は、国会近くにある党本部で記者会見し「最善を尽くしたが、期待に応えられなかった。すべての責任は私にある。ユン候補にもお祝いを言いたい」と述べ、敗北を宣言しました。

イ・ジェミョン氏が敗れた背景には、不動産価格の高騰などでムン・ジェイン政権への不満が高まる中、政権交代を求める声が強まっていたことが挙げられます。

与党内で非主流派のイ氏は、選挙戦で、ムン政権に不十分な点があったと認めて差別化を図る一方、地方行政を率いた実績をアピールして政治経験のない、最大野党のユン・ソギョル氏との違いを強調しました。

しかし、政権交代を求める声が50%を超える中で、勝敗のカギを握る中道層にまで広く浸透することができませんでした。

また、これまで歯にきぬ着せぬ発言や分かりやすいメッセージで人気を集めてきたイ氏ですが、テレビ討論会では、ロシアによる軍事侵攻を受けているウクライナのゼレンスキー大統領を「初心者の政治家」と表現し、釈明に追われるなどしました。

イ氏をめぐっては、ソンナム市長だった当時に起きた都市開発事業をめぐる背任事件で、不正な資金の流れに絡む意思決定に関わっていたのではないかという疑惑が取りざたされ、イ氏は関与を全面的に否定したものの、説明責任を十分に果たしていないとする批判も出ていました。

さらには、家族をめぐっても不正疑惑が指摘されるなどした結果、無党派層が多く、公正さを重視する若い世代を中心に、思うように支持を集めることができなかったとみられます。