【ワシントン=田島大志】米国防総省高官は8日、ウクライナに侵攻しているロシア軍が首都キエフの包囲網を3方面から狭め、総攻撃への準備を進めているとの分析を明らかにした。各地で激しい市街戦が展開される恐れが強まっているが、住民の退避は思うように進んでいない。

 高官は、キエフ北方2か所に集結しているロシア軍部隊に加え、新たに北東約60キロ・メートルの距離で進軍が確認されたと説明した。露軍が総攻撃に入れば、長距離砲で市街地を集中的に狙い、補給路も断つとみられる。

 米国防情報局(DIA)のスコット・ベリエ長官は8日、下院の公聴会で、キエフが水や食料の補給路を遮断されれば、「10日から2週間で絶望的な状況になる」との見通しを示した。

 米情報機関を統括するアブリル・ヘインズ国家情報長官は公聴会で、米欧による対露制裁はプーチン大統領の予想を上回るものだと指摘し、制裁によって「プーチン氏が抑止される可能性は低く、むしろ(攻撃が)激化する可能性がある」と述べた。

 一方、ウクライナ国営通信によると、ウクライナ政府は9日、ロシア軍の攻撃が特に激しいキエフ郊外や北東部スムイ、南東部マリウポリなど10自治体から住民を退避させる「人道回廊」を実施した。

 ウクライナのイリナ・ベレシュチュク副首相はロシア側と「合意した」と強調したが、各地で露軍が砲撃などで退避を妨害し、多くのルートで中止を強いられた。マリウポリでは9日、市中心部の産院が破壊された。露国防省は8日夜には住民を退避させるための限定的な攻撃停止の用意を表明していたが、9日の発表では言及がなかった。