ニュースイッチ<日刊工業新聞>

 キオクシアホールディングス(HD、旧東芝メモリホールディングス)は、北上工場(岩手県北上市)でNAND型フラッシュメモリーを生産する新棟の建設を始めた。総投資額は約1兆円、2023年稼働し、フル生産時に同工場の生産能力は2倍程度に増える見通しだ。キオクシアHDは第2位株主である東芝の経営問題が新規株式公開(IPO)計画の懸念材料ともなり得るが、世界首位の韓国サムスン電子を追撃するため、攻めの投資を継続する必要がある。  

 6日、新製造棟の起工式会場で会見した早坂伸夫社長は「スマートフォンやデータセンター向けなどで需要は年率30%前後で伸びる。北上工場は今後も拡大し、四日市に匹敵する工場にしたい」と期待を述べた。  

 新棟の「第2製造棟」で生産するのは、3次元積層構造で記憶容量を高める「BiCS FLASH」というNAND型フラッシュメモリー。クラウドサービス、第5世代通信(5G)、自動運転、メタバースといった新技術やサービスの普及によって拡大が続くメモリー市場の成長を競争力のある製品で取り込む。  

 新棟建屋の投資は営業キャッシュフローの範囲内で行い、数年かけて増強する生産設備の投資は米ウエスタンデジタルと協議し、分担していく方針。NAND型フラッシュメモリーへの積極投資を続けるサムスン電子に差を広げられないよう投資を継続していく必要があり、経済産業省の補助金の活用も検討している。

 キオクシアHDは、財務基盤を強化するためIPOを計画しているものの、米中対立や株式市場の動向を理由として上場のタイミングを延期してきた経緯がある。さらに、株式の56・24%を持つ米投資ファンドのベインキャピタルが、同じくキオクシア株の40・64%を持つ東芝の買収に名乗りを上げており、キオクシアのIPO計画にはさらなる検討事項が加わっている。

 NAND型フラッシュメモリーを含む半導体産業の競争力を向上することは、日本の経済安全保障上の重要課題でもある。ベインによる東芝の買収と株式の非公開化という提案が東芝の経営戦略にどう影響してくるかは見通しにくいが、両社共通の利益のためにキオクシアの投資を後押しし、競争力を高める必要がある。