ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシア軍の苦戦が伝えられる中、欧米のメディアは、ロシア軍の幹部が司令官として新たに指揮を執ることになったと伝えました。ロシアが軍事介入し多くの市民が犠牲になったシリアの内戦で現地の指揮を執った人物で、アメリカ政府の高官は「残虐行為に及んだ過去がある」として懸念を強めました。
ウクライナでは、ロシア軍が首都キーウ周辺から撤退したあと、多くの市民が殺害されているのが見つかっていて、ウクライナのベネディクトワ検事総長は10日、イギリスのテレビ局、スカイニュースのインタビューでキーウ州で10日朝までに1222人の死亡が確認されたと明らかにしました。
また、ウクライナ国内で起きたロシアによる戦争犯罪は5600件にのぼり、ロシア軍の幹部や政治家などおよそ500人の容疑者を特定したとしています。
一方、戦況を巡ってアメリカのシンクタンク「戦争研究所」は9日、キーウ周辺から撤退したロシア軍の部隊は戦闘能力をほとんど失い、兵士の士気などの面で深刻な問題に直面していると分析しています。
こうした中、イギリスの公共放送BBCなど欧米のメディアは9日、当局者の話として、ロシア軍の南部軍管区のトップ、ドボルニコフ司令官がウクライナでの軍事侵攻の指揮を執ることになったと報じました。
BBCは当局者の話として、これまで不十分だった部隊どうしの連携を整え、態勢を立て直す必要に迫られたことが背景にあるとみられると伝えています。
ドボルニコフ司令官はかつてロシア南部のチェチェン紛争に参加したほか、2015年から翌年にかけてはロシアが軍事介入したシリア内戦で指揮を執り、この間、多くの市民が犠牲になりました。
ドボルニコフ司令官について、アメリカのホワイトハウスで安全保障政策を担当するサリバン大統領補佐官は10日、CNNテレビに出演し「シリアで市民に対して残虐行為に及んだ過去がある」と述べ、ウクライナでも同様の行為をするおそれがあると懸念を強めました。
ロシアでは、来月9日にはプーチン政権にとって国民の愛国心を高める重要な行事となる、旧ソビエトが第2次世界大戦でナチス・ドイツに勝利したことを記念する祝日が控えていて、専門家からはプーチン政権としては国民にアピールできる成果を急ぎたいのではないかという指摘も出ています。
ただ、ロシアとの停戦交渉にあたるウクライナのポドリャク大統領府顧問は9日、「大規模な戦闘のための準備はできている。東部での戦闘に勝ってから実質的な交渉の立場を得ることができる」と述べ、徹底抗戦を続ける構えを強調していて、東部で大規模な戦闘になれば市民の犠牲がさらに増えることが懸念されています。