きのう財務省は4−6月期の「企業法人統計」をまとめた。まず驚くのは企業利益。全産業(金融・保険業を除く)の経常利益は28兆3181億円に達した。これは前年同期比17.6%増、前年を上回るのは6期連続となる。四半期統計だから18カ月連続増益だった。要するに1年半、コロナ禍でも企業はちゃんと利益を確保してきた。それは悪いことではない。でも、もっと驚く数字がある。企業の内部留保だ。516兆4750億円。前年度比6.6%増。過去最高だ。うち現預金保有額は同8.3%増の280兆9756億円。啄木ではないが「じっと通帳(手)を見る」心境だ。家計は細り、企業はコロナで焼け太る。おまけに世間は原材料高に伴う値上げラッシュ。9月に入って2000品目が値上げされる。10月には6000品目が予定されている。今更ながら黒田日銀総裁の「家計は値上げを受け入れている」発言が、悪魔の囁きのように頭の中を駆け巡る。
財務省はこの結果について、「緩やかに持ち直しの動きが続いている景気の状況を反映した」と分析している。通り一辺倒というか、問題の本質に目を背けた解説という気がする。総務省の家計調査によると6月の勤労者世帯の収入は、名目で前年同月比1.4%増となっている。だが、物価上昇分を差し引いた実質は1.4%のマイナス。企業がしっかり内部留保を積み増す中で、家計は引き続きやせ細り状態が続いている。それだけではない。医療費や年金など社会保障費の負担がジワッと家計にのしかかっている。これを含めると家計の可処分所得は前年比で大幅なマイナスだろう。ロイターによると黒田日銀総裁は先のジャクソンホールで以下のような発言をした。「賃金と物価が安定的かつ持続可能な形で上昇するまで、持続的な金融緩和を行う以外に選択肢はない」と。
物価は上がりはじめている。問題は賃金だ。日経新聞によると、今春闘での平均的な賃上げ率は定昇とベア合わせて前年比0.48ポイント増の2.28%だった。企業の内部留保6.6%増に比べるとかなり見劣りする。米国は猛烈な物価の上昇で企業の原材料コストが急騰している。ここまでは日本企業と一緒だ。だがここから先が違っている。原材料の上昇分を製品価格に転嫁、利益を確保した上で人件費を上げている。市場経済の“常態”は原材料価格アップ→製品価格へ転嫁→人件費アップという流れだ。デフレが続いた日本では転嫁も人件費アップもできなかった。それがようやく転嫁までできるようになってきた。だが相変わらず人件費は抑制している。ここがネックだ。目先、日本経済に必要なのは新しい資本主義でも金融緩和でもない。給料を上げて家計の可処分所得を増やすことだ。