Philip Aldrick
- 高額所得者向け最高税率引き下げ、バンカー賞与の制限撤廃も
- インフレをあおり債務は膨らむと市場が懸念-英資産急落
トラス英政権は1972年以来の大規模な減税を打ち出した。景気への長期的な効果を狙い、個人所得税を引き下げ、予定していた法人税率引き上げは撤回する。
クワーテング財務相は不動産購入時の印紙税も削減。個人や企業が直面する光熱費の高騰に対し、今後6カ月間で600億ポンド(約9兆5000億円)を拠出して支援することを確認した。
また高額所得者に対する45%の所得税最高税率を廃止し、基礎税率も20%から19%に引き下げる。ロンドンの金融街シティーに対する規制自由化も約束し、バンカーの賞与制限は撤廃する。
政府は規制改革を含む今回の措置で経済を活性化させ、イングランド銀行(英中央銀行)がすでに始まっていると指摘するリセッション(景気後退)に歯止めをかけたい考え。だが、投資家やエコノミストは懸念を表明。政府が賄いきれない水準にまで債務が膨らみ、インフレをあおる恐れがあるとみている。
クワーテング氏はすう勢成長率の目標を2.5%に設定したが、これは2008年の金融危機以前の水準だ。同氏は23日の議会で「われわれは成長を優先させると約束した」と述べ、「新時代に合わせた新たなアプローチを約束した」と続けた。
この経済対策の費用は5年間で1610億ポンド(約25兆5000億円)に上る。すでに大規模な英国の政府債務が管理不能な状態に陥るとの不安を背景に、23日の市場ではポンドと英国債が大きく売られている。
英国資産が急落、5年債利回り高騰-大型財政出動で信用力に懸念か
英債務管理庁(DMO)はこの日、2023会計年度(22年4月-23年3月)の国債発行額が1939億ポンドに増額されると発表。4月時点では1315億ポンドを計画していた。クワーテング氏は公的債務増加への懸念に対し、「中期的に対国内総生産(GDP)比で債務を削減する」と約束するにとどめた。
英中銀は22日に0.5ポイントの利上げ決定を発表し、需要過剰の兆しが見られれば、より急速な行動が必要になると示唆していた。短期金融市場は英中銀が11月に予定する次回の金融政策判断で、政策金利を1ポイント引き上げると織り込みつつある。英国債は急落し、政府の追加借り入れは経済成長にほとんど寄与せず、物価上昇は加速させると市場関係者が考えていることを浮き彫りにする。
英中銀金融政策委員会(MPC)の元メンバー、マーティン・ウィール氏は、政府の経済対策は「失敗に終わる」と予想、ポンド売りを引き起こすと警告した。
KPMGの税務政策責任者、ティム・サーソン氏は「方向性の明らかな変更」だとし、「1980年代の経済学への逆戻り」だと指摘した。
原題:UK’s Biggest Tax Cuts Since 1972 Trigger Crash in Pound, Bonds(抜粋)