[東京 21日 ロイター] – 「抜本的に」と岸田文雄首相が世界に約束した日本の防衛力増強は、焦点となる財源議論が本格化する。政府の有識者会議では安定財源の確保が必要との意見が多数で、増税が有力な選択肢となりつつある。一方、与党内には国債発行を求める声のほか、防衛費の増額規模は財源が確保できる範囲で十分との見方もある。防衛3文書を改訂する年末まで、財源を巡る議論は紆余曲折を経る可能性がある。
岸田文雄首相は20日に開いた第2回有識者会議で、鈴木俊一財務相に対し11月にも開く次回会合で財源の検討状況について報告するよう求めた。政府側の説明によると、会議では「法人税の引き上げが企業努力に水を差さないようにして欲しい」と指摘する声があったものの、「防衛は国民が幅広く受益するので広く負担を求める必要がある」、「むやみに国債を出すだけでなく、広く国民に負担をお願いする必要がある」など安定財源を求める声が多数だったという。
自民党税制調査会の宮沢洋一会長は17日の報道各社とのインタビューで「所得税、法人税を白紙で検討していく」と発言しており、政府・与党の中枢では防衛費増額と増税議論が並行して進む見通し。賃上げ企業を優遇する形の実質的法人税引き上げは実現可能との声が与党・財務省幹部からも出ている。もっとも、増税は実現までに時間がかかることから、「当初はつなぎ国債(交付国債)で財源を手当てすればよい」(内閣府幹部)との意見が多く聞かれる。
折しも英国でトラス首相が財源の裏付けを欠いた減税策を打ち出し、金利・為替市場が乱高下。在任わずか45日で辞任表明に追い込まれ、「財政規律の重要性が改めて認識されている」(財務省中堅幹部)状況にある。鈴木財務相は21日の閣議後会見で「財政の信認、とくに市場における信認はその国そのものの信頼に関わる」、「財政規律はしっかりと、今後ともそれを念頭においた施策を心がけていく」と語った。
しかし、自民党内では国債発行を求める意見も根強い。8月末に開かれた党の国防部会では「有識者会議は財務省に牛耳られてしまうのでは」、「防衛国債の発行を提言する」などの声が出た。与党全体では公明党と岸田首相に近い自民党議員が増税を含む安定財源重視、一部自民党議員が国債発行重視の構図だ。
また、防衛費の増額規模や防衛力の増強内容について、自民と公明の間にさまざまな意見がある。自民党は防衛費の対国内総生産(GDP)比を5年以内に現行の1%から2%以上に引き上げる選挙公約を掲げてきたが、公明党は、防衛力強化の内容と優先順位の検討が必要、国債依存でなく恒久財源の確保と主張している。
自民党内でも具体的な増額幅には乖離がある。現行基準でこれまでの約6兆円(21年度の当初予算と補正計)から倍増するため、防衛政策に詳しい幹部の間でも「毎年1兆円ずつ増額し5年で40兆円程度の経費が必要」、「毎年6000億─7000億円程度の増額で5年で30兆円程度で十分」と見方が割れている。
与党内で異論のあるもう一つの焦点が防衛費の定義だ。現在は含まれていない海上保安庁の予算や恩給費などを組み入れると、防衛費の対GDP比は1.24%程度との試算を官邸は有識者会議などで提示している。
岸田首相は20日の有識者会議で「防衛力強化には縦割り打破が必要」と述べており、 防衛費の定義を拡大し、軍事技術に利用が見込める他省庁の研究開発費などを組み込むことで、米国や中国に比べ遅れている防衛と産業界の連携を強めたいのが官邸側の意向だ。ところが、「防衛費の水増し」(中堅幹部)との声が自民内にはある。
関係者2人によると、政府は11月上旬と下旬にも有識者会議を開く。国家安全保障戦略、防衛大綱、中期防衛力整備計画の3文書改定や年末の予算編成に先立つ12月上旬をめどに、提言をまとめる段取りを描く。
財務省の関係者は「最終的に増税の可能性・規模が決まり、その後防衛費の規模が決まる」と話す。別の同省関係者は「防衛費増強は政権支持率に必ずしもプラスではないため、大幅な増税は先送りする可能性もありそうだ」と語る。