[東京 28日 ロイター] – 日銀の黒田東彦総裁は28日、金融政策決定会合後の記者会見で、2023年度や24年度の物価見通しを引き上げたことで2%の物価目標の持続的・安定的な達成に「近づいてきている」と述べた。ただ、24年度でも2%には届いておらず、金利を引き上げる状況にないとした。9
外為市場における最近の円安進行は「急速かつ一方的」とし、「日本経済にとってマイナスであり、望ましくない」と語った。日本経済をしっかりと支え、賃金上昇を伴うかたちで物価安定目標を持続的・安定的に実現するために「金融緩和を継続することが適当」と述べた。
<物価目標へ、必要なのは3%の実質賃上げ>
28日に公表された展望リポートでは、消費者物価指数(除く生鮮食品、コアCPI)の見通しが22年度から24年度に掛けてすべて引き上げられた。ただ、23年度・24年度はともにプラス1.6%で2%を下回った。黒田総裁は、物価目標に「近づいてきているのは事実だが、24年度でも見通せる状況にない」と指摘。「今すぐ金利引き上げとは見ていない」と述べた。
黒田総裁は賃金動向を重視する姿勢を強調。来年の春闘を巡り、連合は5%の賃上げを目指す方針を示している。5%のうちベースアップ相当分が3%だが、黒田総裁は「ベアが重要な要素になる」と指摘。1%の労働生産性を踏まえれば「3%の実質的な賃上げがないと2%の物価目標を持続的・安定的に達成できない」と話した。
<為替>
黒田総裁は、為替について経済・金融のファンダメンタルズを反映して安定的に推移することが重要との認識を改めて示した。為替介入の有無についてはコメントを控えるとした上で、政府の通貨政策について、投機による過度な変動に対して適切に対応する方針に沿って「適切に判断されている」と語った。
為替変動の要因で内外金利差に注目する市場参加者も多いが、「金利差だけに着目して最近の物価動向を説明するのは一面的だ」と述べ、そうした見方に釘を刺した。イールドカーブ・コントロール(YCC)による金利の抑制が円安を招いているとの見方も否定した。
<イールドカーブは「適切」>
海外の金利上昇を背景に、8年物や9年物金利が10年物金利の許容上限である0.25%を一時上回るなど、市場ではイールドカーブの歪みが指摘されている。黒田総裁は、YCCの下、適切なイールドカーブにする目標は達成されていると述べた。
(和田崇彦、杉山健太郎)