4年に一回のサーカーワールドカップが始まった。開催国のカタールに世界中の視線が注がれている。あれは一体何年前になるのだろうか。サッカー観戦に熱中しはじめた直後に“ドーハの悲劇”に見舞われた。その日は1日中仕事が手につかなかった。あの虚脱感は今も鮮明に記憶の片隅に残っている。無気力な時間を過ごしたのは私だけではない。周りにいたサッカー好きの先輩や後輩、同僚までが皆、同じ症状を呈していた。野球でもラグビーでも、バレーボール、テニスなど、どんなスポーツでもファンのメンタリティーは勝負に連動する。だがサッカーファンの熱狂は時に狂気に、時に度を超えた落胆にもなる。ウクライナ戦争をはじめ世界中が不穏な空気に包まれている。80億人の地球人は不安を抱え、不満を蓄積し、爆発の危機に直面している。そんな不穏な空気の中で日本はドイツに挑む。

オープニングゲームは開催国カタールと南米エクアドル。カタールは2019年のアジア選手権を制した強国。対するエクアドルは南米予選4位で本大会進出を決めた常連国。F I F Aランキングはエクアドルが44位。カタールは50位。結果はエクアドルが2−0で勝利した。開催国が開幕戦で敗れるのは初めてのことだ。開催国としてのプレッシャーがあったのだろう。きのうはイングランドとイランの試合をLIVEで見た。開幕前にイングランドの選手がピッチ上で片膝をついて人種差別に抗議していた。ヒジャブーをめぐる女性差別への抗議だろう。イランの選手も国歌斉唱をしなかったように見えた。スポーツ選手の間でも自由で平等な世界への期待が強まっているのだ。結果はイランが2−6で優勝候補のイングランドに大敗した。イラン国内の不穏な空気が選手たちに乗り移ったような試合だった。

それにしてもLIVEでみるトップ選手の心技体の迫力には圧倒される。まだ2、3試合を見たに過ぎないが、ワールドクラスの選手のスピード、技術、正確なボールコントロール、そしてシュート力。全てに目を見張る迫力がある。国内で見るトーナメントもそれなりに面白いが、ワールドカップという舞台はそれをはるかに上回る気がする。そしていよいよ明日、日本はドイツとの初戦を迎える。“ドーハの悲劇”を思い出しながら、いざという時に弱い日本のイメージが頭の中を駆け巡る。だが今の若い選手にそんな弱気は一切ない。むしろ勝って当たり前のドイツの選手に重圧がかかる。ブンデスリーガーの遠藤や鎌田は「アドバンテージは日本にある」と嘯く。時代は明らかに変わっている。プレッシャーを楽しみながら勝つことにこだわる選手たちがいる。明日、日本はドイツに勝つ。