[東京 2日 ロイター] – 日銀の若田部昌澄副総裁は2日、静岡県金融経済懇談会であいさつし、物価目標を曖昧にすることは金融政策が追求すべき目標を曖昧にし、金融政策の透明性や政策効果を損ないかねない危険性があると警戒感を示した。

若田部副総裁は3月19日で任期満了となる。岸田文雄首相は2月中に新しい正副総裁の人事案を国会に提示する見通しで、「早期の2%目標達成」を盛り込んだ政府・日銀の共同声明を見直すべきかどうか、新総裁と協議する方針。

物価目標について、若田部副総裁は中央銀行の物価安定に向けた責務を数量的な定義で明示したもので、世界の多くの中央銀行が採用していると述べた。

一方、最近の消費者物価には輸入物価の大幅な上昇や政府の物価高対策など様々な要因が働き「単独の指標で物価の基調的な動きを把握することはより難しくなっている」と指摘。「経済全体の需給の状況や賃金動向を含め、物価動向を規定するメカニズムをしっかりと点検していくことが一段と重要になっている」と述べた。

物価の基調を見極める上での注目ポイントとして、品目別の価格変動率の分布、企業の価格設定スタンス、賃金設定スタンスの変化を挙げたが、一連の変化が十分に持続的で2%目標の実現につながるかどうかは「なお不確実性が高い」とした。物価目標を持続的・安定的に実現するため、引き続き金融緩和を着実に進めていく必要があると語った。

<政策余力のための利上げは「本末転倒」>

昨年12月の長期金利の変動幅拡大については、イールドカーブ・コントロールによる金融緩和の持続性を高めることが狙いだと説明。イールドカーブ全体を低位に安定させるため、国債買い入れの増額なども行っており、「金融緩和を続けていくという日銀のコミットメントは全く変わっていない」と述べた。

若田部副総裁は2013年以降の異次元の金融緩和を振り返り、成長や雇用増、税収増など様々な面で成果を上げてきたと述べた。物価については「継続的に物価が下落するという意味でのデフレではない状況に達した」とした。

その上で、低金利を継続していることで将来的に景気後退や金融危機が起きた場合に政策対応の余力が乏しくなるとの議論に対しては「政策の対応余力は重要だが、その余力を作るために利上げを行い、経済を悪化させてしまうのでは本末転倒だ」と反論。政策余地を作りたければ、金融緩和で経済成長を促すとともに予想物価上昇率を引き上げ、その結果として物価上昇率が高まり、中立的な名目金利の水準が上がることによって生みだすことが適当だと話した。

金融緩和よりも、経済成長の促進に資する少子化対策や構造改革の方が重要だという指摘に対しては「少子化対策や成長戦略は、金融緩和を含めたマクロ経済の安定化策と矛盾するものではなく、同時に追求されるべきものだ」とし、この点は政府・日銀の共同声明でうたわれている通りだと述べた。

(和田崇彦)

長期金利変動幅の再拡大、慎重な判断が必要=若田部日銀副総裁<ロイター日本語版>2023年2月2日3:24 午後

[東京 2日 ロイター] – 日銀の若田部昌澄副総裁は2日午後、静岡県金融経済懇談会後の記者会見で、昨年12月の長期金利の変動幅拡大について、拡大決定後の市場機能の改善に「やや時間が掛かっている」との認識を示す一方、緩和効果をそぐ恐れがあるとして再度の変動幅拡大は「慎重の上にも慎重に判断をしなければいけない」と述べた。

若田部副総裁は12月のイールドカーブ・コントロール(YCC)の運用見直しについて「緩和の持続性強化には必要な措置だった」と述べた。一方で「(再び)変動幅を広げるということになると、その部分だけを取り上げてみると緩和効果との兼ね合いが問題になる」として慎重な姿勢を示した。

<賃上げと値上げの循環、回り始めるか「重要な時期」>

午前のあいさつでは、物価目標を曖昧にすることは「政策効果を損ないかねない」と述べた 。

会見では「2013年以降の物価目標は十分に明確だった」と指摘。2%目標を掲げて金融緩和を行ったことでさまざまな効果が出たと強調した。

経済界や学識者でつくる「令和国民会議」(令和臨調)が政府・日銀の共同声明の見直しを提言したことについては、コメントを差し控えるとした。

若田部副総裁は、現在の局面は賃上げと価格の引き上げの循環が安定的・持続的に回るのか「非常に重要な時期だ」と指摘。「上下双方向、どちらかというと下方向に戻る力が強いので、そこはまだ安心できない」と述べた。物価目標の成否を判断するには「1回の春闘だけでは情報量が足りない」とも話した。

10年にわたる大規模緩和の検証が必要かとの質問には、物価上昇の帰すうがはっきりしていない現段階では「検証よりも、まずは足元の政策をきちんと遂行しなければいけない」と述べた。

(和田崇彦 編集:青山敦子)