SVBの破綻は米金融当局の迅速な波及防止対策によって最悪の事態を回避した、と昨日この欄で書いたばかりだ。一夜明けて今朝ニュースを見たら、スイスの金融大手クレディ・スイス(CS)の株価が暴落、世界中の金融当局が情報収集と対策に当たっているとのニュースが飛び込んできた。一瞬、「これはSVB破綻の連鎖か」と思ったが、どうやらそうではなさそうだ。ロイターによると「米銀行大手はここ数カ月、CSへのエクスポージャーを管理しており、同社から生じるリスクはいまのところ管理可能」と見ているようだ。CSといえばここ数年だけでもいくつもの不祥事を起こしている。2021年には、取引関係にあった英金融サービス会社グリーンシル・キャピタルと米投資ファンド、アルケゴス・キャピタル・マネジメントが共に破綻したことにともない莫大な損失を被っている。金融機関内部でも要注意銀行として知られており、どこの銀行もリスク管理を徹底していたようだ。

その銀行の株価がきのう暴落した。原因は筆頭株主であるサウジ・ナショナル・バンク(SNB)が追加出資はできないとテレビのインタビューで述べたことによる。ロイターによるとSNB昨年、CSの増資に応じ、ほぼ10%の株式を取得した。15日のインタビューで追加出資の可能性について質問された際にアンマル・アルフダイリー会長は、「(持ち株比率が)10%を超えてしまうので(追加出資は)できない。規制の問題だ」と述べた。一連の不祥事で流動性が苦しくなっているCSの株価がこの発言の直後から急落、SNBやシグネチャーバンクの破綻の連想も重なって一刻を争う大騒動になったようだ。米国の株式市場ではJPモルガン・チェース、シティーグループ、バンク・オブ・アメリカなど大手金融機関の株価も軒並み急落した。事態を収集するためにスイス中央銀行が同行に5000億スイスフランの融資を決めるなど、異例ともいうべき対策が極めて迅速に発表された。

SVB破綻から始まった一連の事態についてドイツ銀行のクリスティアン・ゼービックCEOは「米国と欧州で起きた出来事に類似性はないと考えている」(ロイター)との見解を示している。確かに、経営上の問題に至る原因は異なっているが、どちらも流動性が確保できなくなった点は一緒だ。SVBは預金が保護されたものの経営は破綻した。CSはスイス中銀が流動性を確保するために巨大な額の融資を決めて落ち着きを取り戻した。経営破綻はとりあえず免れている。CSは「大きすぎて潰せない銀行」ということだろう。いずれにしても両行は政策金利の急激な引き上げに対応できなかった。金利上昇に伴う米国債の急落が傷口を広げた。日本にも国内の債券市場を避けて米国債に投資している機関投資家がいっぱいいる。金融機関への影響は少ないものの、機関投資家は現時点でもかなりの含み損を抱えていると見ていいのではないか。金融波乱、まだまだ続きそうな気がする。