SVB、シグネチャー銀行、クレディ・スイス銀行(CS)と相次いだ金融破綻。世界を覆っていた暗雲が徐々に取り除かれようとしている中で、金融を取り巻く新たな問題が浮上し始めている。銀行預金は全額保護すべきか、CSが価値ゼロと評価したA T1債のあり方は本当に正しいのか。投資家の中には異論や反論があり、提訴する動きも表面化している。ゼロ金利とジャブジャブの金融緩和、預金者も投資家も発行体もこれまで気にかけてこなかった金融の細部に亀裂が入りはじめている。そこをついて暗号資産に復活の兆しがではじめた。リーマンショックでシステミックリスクの恐ろしさを経験した金融界。当局も含めてリスク管理や安全性の研究ならびに対策が実施されてきた。だが基盤が強化されたはずの金融界に新たなリスクが忍び寄る。繰り返される金融破綻と尽きることのない金融リスク。大袈裟にいえば金融市場は答えのない危機に直面しているようだ。

イエレン財務長官はきのう、議会の公聴会で金融システムの安全性を強調する一方で、「預金保護で追加措置を講じる用意がある」と述べた。金融当局はこの間、「預金保護」で万全の措置を講じてきたはずである。それに加えて今回の発言、新たな措置が必要な危機がどこかに潜んでいるような言いぶりだ。誰しもそう思うだろう。金融波乱は峠を越しが、安心するのはまだ早ということか。預金は保護されるが、債権の保有者は保護しない。それがCSの発表したAT1債の無価値だ。要するにAT1債は紙屑になったのだ。AT1債(another tir1 bond)とは金融機関が自己資本に組み入れることが可能な、株式転換型債券のことを指している。いざという時に自己資本に組み入れることが可能なことから、多くの金融機関がこの債券を発行している。発行目論見には無価値化のリスクが表記されており、C Sの措置は規則に則っており決して違法ではない。

だが、USBに買収されるCSの株主には一定の比率でUSB株が交付される。破綻した銀行の債券保有者は保護されないが株主は保護される。ここに無限責任を負うはずの株主と、本来有限責任しかない債券投資家の間の矛盾が生じる。いまのところスイス連邦金融市場監督機構(FINMA)はAT1債の無価値化に問題はないとしている。AT1債の保有者は限定されており、システミックリスに発展する心配はない。問題があるとすれば本来整合的であるべき金融ロジックに破綻が生じている程度のことか。それでも投資家にすれば納得できない解決策だ。SVBからあっという間に預金が流出したように、信用が売り物のスイスから預金が流出する事態が起こらないとも限らない。ロイターによるとビットコインが22日、約9カ月ぶりの高値を付けた。年初来の上昇率は70%を超えたという。目には見えないが、現行金融システムの奥深ところに亀裂が入りはじめたのかもしれない。だとすれば、これが本当の危機だろう。