厚生労働省は2月28日、衝撃的な発表をした。2022年の出生数は79万9728人(速報値)で、統計を取り始めた1999年以降で最少という。厚労省のデータでは、1人の女性が生涯に産む子どもの数に相当する「合計特殊出生率」の21年の全国平均は1・37。山陰・山陽の4県は平均をわずかに上回るが、「少子化」が大きな課題であることに変わりはない。こうした中、19年に出生率2・95を記録した「奇跡の町」が岡山県にある。
県北東部の鳥取県境にある人口約5700人の奈義町。20年かけて取り組んできた少子化対策が実り、出生率は21年も2・68を維持している。注目を集め、米国、韓国、オランダ、カタールなどの海外を含む自治体の訪問は年間50件を超え、岸田文雄首相も2月19日、視察に訪れた。
「少子化は『万病』のもと」「少子化対策と高齢者対策は両輪なんです」。町総務課長の森安栄次さん(44)は、こう切り出した。若い世帯が激減すると、スーパーマーケット、病院などの経営も厳しくなり、撤退を免れない。「たちまち困るのは、残された高齢者。街もあっという間に、さびれていく」
始まりは、02年だった。津山市もしくは美作(みまさか)市との合併を問う住民投票で、町単独の存続が決まった。生き残るには、人口減少に歯止めをかけるしかない。町議の定数を14から10に減らした。補助金、交付金などもカットして町民への「協力」も求め、約1億6000万円の財源を捻出できたという。
子育て支援策を町再生の柱に据え、段階的に進めてきた。小中学校の教材費や高校生までの医療費の無償、高校生の就学支援金として1人当たり年24万円の支給などを実現している。
07年には子育て支援施設「なぎチャイルドホーム」を開設。子どもの一時預かりサービスのほか、親が子連れで「井戸端」のように語り合える場となる。スタッフは子育てを終えたお母さん、現役の母親ら世代を超えた「住民参加型」となっているのがミソだ。
「子育て応援の町」との評判が広がり、移住する若い世代も増えた。出生率は上昇しても、高齢者の死亡による人口減少は続いたが、23年3月1日時点の人口は5751人で、22年4月の5725人から微増に転じた。
町は若い世代定着のため、住宅建設も進めてきた。子ども3人が当たり前となる中、「洗濯物が多くて、なかなか乾かない」との悩みが寄せられると、オール電化による室内乾燥が可能な住宅で、ニーズに応えた。森安さんは「継続してグレードアップしていくことが重要だ」と語る。
3月まで岡山県子ども未来課少子化対策班総括参事だった林誉知(やすのり)さん(55)は「少子化問題は、何が問題(原因)なのか分からないのが問題だ」とも漏らす。奈義町はまれな成功例かもしれないが、森安さんは言う。「時間はかかるが、答えは住民の中(声)にある」【堤浩一郎】