[ローマ 12日 ロイター] – イタリアが「文化戦争」の口火を切った。ジョルジャ・メローニ首相が率いる右派連立政権は発足からほぼ半年間で、国家アイデンティティーの促進や、伝統的な家族観擁護、文化的な遺産の保護、移民制限などを約束する法案を次々に打ち出している。
最近提出された法案には、イタリア語を守る制度、研究所で栽培された培養肉などの合成食品の禁止などがある。さらに同性パートナーによる養子登録を難しくする措置といった、欧州連合(EU)欧州議会から批判を浴びる内容まで含まれる。
これらの動きは、EUからの新型コロナウイルス復興基金の提供が難航していることなど、より重要な分野で連立政権が直面する厳しい現実を覆い隠す狙いがある、というのが批判派の見方だ。EUは先月、イタリアに対する復興基金の190億ユーロ(約2兆8000億円)の支払いを巡り、条件となる目標達成の詳しい説明を求めて実行を凍結した。
メルカトルム大学で政治コミュニケーションを研究するマッシミリアノ・パナラリ氏は「国家アイデンティティー」を掲げる連立政権の手法について、特に人権問題で長期的にEUと摩擦を引き起こしかねないと懸念した。
人権問題の面でイタリアは、現在でも性的少数者の権利保護が他のほとんどの西欧諸国よりも遅れている。だが、メローニ氏は逆に伝統的な家族観の重要性をことさらに称賛している。
また、メローニ氏が率いる与党「イタリアの同胞」(FDI)幹部のファビオ・ランペッリ氏は「われわれにはダイヤモンドも、多くの石油やガスの資源もない。イタリアの『鉱山』は文化とおいしい料理、言語、芸術、ファッション、歴史、考古学、モニュメントでできている。これこそ、われわれが世界に提供し、改善していくのが可能なものだ」と主張した。
ランペッリ氏は先月、イタリアの企業と公的機関が母国語ではなく主に英語をはじめとする外来語を使用した場合、最大10万ユーロの罰金を科すと定めた法案を提出した。
ただ、野党の「五つ星運動」は、政権自体が昨年の発足時にアドルフォ・ウルソ氏を経済開発・企業および「メイド・イン・イタリー」相に任命して早速、その肩書に英語を使っているではないか、とこの法案のばかばかしさを指摘している。
メルカトルム大学のパナラリ氏は「アイデンティティーに関するメッセージは、FDIが自分たちの基本路線を決して譲らないと有権者に伝える意図がある」と分析した。
<目くらましか>
フランチェスコ・ロッロブリジダ農相は、合成食品はイタリア料理の歴史と相容れず、健康にとって危険な可能性もあると説明し、禁止措置の正当性を訴えている。
そもそもメローニ氏が昨年政権の座に就いた当初の欧州では、独裁者・ムソリーニが率いたファシスト党の後継政党に所属していた過去に対する懸念や、古くからの政治的盟友であるハンガリーのオルバン首相と同じように強権的な路線を歩むのではないか、との不安が渦巻いた。
今のところメローニ氏は大方の批判を受け流し、国内でも、以前は常に批判していたEUとの間でも激しい「正面衝突」は避けているのは確かだ。
だが、同氏は例えば、厳格な移民規制導入という選挙公約を取り下げたわけではない。実際、首相になって真っ先に着手した仕事の1つが、民間のチャリティー船が移民を探すために海上で活動できる時間を制限することだった。
同氏は2021年に出版した自伝で、大量の移民流入を旧ソ連が各地方独自の風習や宗教の影響を弱める狙いで実施した強制的な住民移住と同列に論じている。
「右派は深く根付いたこれらの同一性に関する要素を維持したいし、左派はこれを消し去りたい」と記し、大量の移民は民族の置き換わりや欧州のキリスト教文化の希薄化につながる恐れがあると警告した。
世論調査からは、連立政権のこうした動きが一定程度支持されている様子も分かる。最近の調査ではFDIの支持率は29%と、年初からやや低下したものの、昨年10月の選挙時の26%を上回っている。
ただ、野党民主党のアレッサンドロ・アルフィエリ上院議員は「これらの取り組みは、経済をはじめとする現実的な課題から有権者の目をそらし、国民を(空虚な)イデオロギーの論戦に誘導する試みだと考えている」と非難した。
(Angelo Amante記者)