【イスタンブール時事】トルコで5月14日に行われる大統領・議会選挙では、シリア難民の扱いが争点の一つだ。難民に対する世論の風当たりが強まる中、野党は帰還推進を主張。従来は受け入れに寛容だったエルドアン政権も、厳しい姿勢に傾きつつある。
イスラム系与党・公正発展党(AKP)を率いるエルドアン大統領は、2011年にシリアで内戦が始まって以降、同国のアサド政権と対立する反体制派を支援し、多くの難民を受け入れてきた。現時点で約350万人のシリア難民がトルコで暮らしている。
だが、経済の混乱が続く中、殺人を含む難民絡みの暴力事件が相次ぎ、トルコ市民の間では総じて反難民感情が高まっている。そうした世論を背景に、続投を目指すエルドアン氏はシリア人の「自発的な帰還」の必要性にたびたび言及。アサド政権との関係改善を積極的に進めることで「シリアに戻る人々は増えていく」と強調する。
一方、大統領選でエルドアン氏と対決する中道左派野党・共和人民党(CHP)のクルチダルオール党首は「シリア人を遅くとも2年以内に帰還させる」と訴える。別の野党は「シリア難民の1年以内の送還」を公約に掲げている。
北西部ブルサ県で暮らすシリア難民の男性(25)は16年、激しい交戦があったシリア北部アレッポから逃れてきた。「シリアの家は焼け落ち、戻る場所はない。強制送還が怖い」と話す。選挙については、「(エルドアン氏が)これまでわれわれを守ってくれた」と指摘し、続投して態度を軟化させることに期待を示した。
エルドアン政権による従来の寛容な受け入れ政策は、欧州にとって難民流入の「防波堤」として機能してきた側面もある。シリア難民が帰還を望まない以上、トルコが政策を転換すれば欧州を目指す人々が急増し、欧州を巻き込む形で地域情勢が不安定化することも想定される。