ウクライナのゼレンスキー大統領は、先進7カ国首脳会議(G7サミット)開催中の広島市を訪れ、侵攻を続けるロシアへの対応を巡り、インドやブラジルなど新興・途上国「グローバルサウス」首脳と会談を重ねたい意向だ。グローバルサウスには政治・経済的な関係などを考慮し、G7と一線を画してロシア非難を控え、対ロシア制裁に加わらない国々も多い。ゼレンスキー氏は首脳に「中立」を翻意するよう対面で訴える方針だが、難しいのが実情だ。
ゼレンスキー氏が来日 広島でG7サミット出席、新興国とも協議―支援訴え、ロシアけん制
グローバルサウスの代表格インドのモディ首相は20日、ロシアの侵攻後初めてゼレンスキー氏と対面で会談。ウクライナ大統領府によると、ゼレンスキー氏は「わが国の領土的一体性と主権への支持」に謝意を示し、同氏が提示した和平案に対する協力を要請した。一方、モディ氏はウクライナ侵攻が「人類と人間の価値の問題だ」と指摘し、「対話と外交を明確に支持する」と語った。
インドは今年の20カ国・地域(G20)議長国で、途上国の代弁者としての自負が強い。侵攻後もロシアからの原油や兵器の調達を増やすなど通商関係を拡大し、制裁にも懐疑的だ。モディ氏はプーチン・ロシア大統領に侵攻への苦言を呈す一方、交渉による紛争終結を主張。ゼレンスキー氏が熱心に働き掛けても、ロシアかウクライナの一方に肩入れする余地は乏しい。
ゼレンスキー氏は、インドと同じくロシア制裁に参加しないブラジルやインドネシアの首脳とも会談の機会を探り、ロシア軍撤退やロシア孤立化の必要性に理解を得たい考えだ。ただ、ブラジルは米欧のウクライナ軍事支援こそが紛争長期化を招いていると主張し、「ゼレンスキー氏は全てを得ることはできない」(ルラ・ブラジル大統領)との立場。ウクライナ側の思惑通りに進むかは不透明だ。
ゼレンスキー氏は19日、来日前に立ち寄ったサウジアラビアで演説し「侵略者には決して屈しない」と強調。G7首脳は広島サミットでロシア制裁強化を決定し、和平への道筋は見えていない。ゼレンスキー氏の来日はグローバルサウス首脳の広島訪問の日程も考慮して調整されたもようで、ロシア軍撤退や領土回復などを盛り込む自身の提案に沿った形での和平に向け、仲介の糸口を探る可能性もありそうだ。