[ニューヨーク 5日 ロイター BREAKINGVIEWS] – 新たなハイテク商品を成功させるには、高い機能と使用感という2つの要求を同時に満足させる必要がある。米アップルが5日発表した拡張現実(AR)対応のゴーグル型端末「Vision Pro(ビジョン・プロ)」は、現時点ではどちらも満たしていない。ただ、競合他社に比べれば成功に至る可能性が高そうだ。

新商品の発表は、アップルの株式時価総額が過去最高を記録したタイミングと重なった。ゴーグル型端末に挑む巨大ハイテク企業は、同社が3社目だ。アルファベット傘下のグーグルは2013年に「グラス」プロジェクトを始動したが失敗して撤退。メタ・プラットフォームズは2014年にヘッドセット企業、オキュラスを買収した後、ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)肝入りのメタバース・プロジェクトにその製品を活用している。とはいえこの部門は現在、メタの売上高7000億ドルの1%にも満たない。

アップルのビジョン・プロからは、これら両方のプロジェクトの香りが漂う。メタの製品のように、スキューバダイビングのゴーグルのような見た目だ。そしてグーグル製品のように、端末を着けたまま現実世界ともやり取りできる、つまりゴーグル姿を人から見られるかもしれないということだ。ある意味で、これは現実、仮想世界の最悪の組み合わせと言える。

だがアップルには強みがある。第一にメタと違い、一貫してハードウエア事業に携わってきた。iPhone(アイフォーン)が更新を繰り返しているように、今後デザインを改良していけるかもしれない。

そしてアルファベットとは違い、人工知能(AI)製品開発にどっぷりと入れ込んでおらず、広告事業も、拡大しているとは言え全売上高の小さな部分に過ぎない。つまり新製品のユーザーは、アップルが文字通り自分たちの家の中を「のぞき込み」たがっている、という心配をする必要があまりないかもしれない。何よりティム・クックCEOはこれまで、プライバシーの価値を重んじる発言をしてきた。

もっとも、新製品の成功への道のりはまだ長い。価格は1台3500ドルと、大衆に普及するには高過ぎる。見た目がいかつくて、一般の人々による利用は限られるだろう。それに人々は現実世界と仮想世界を行き来することにまだ居心地の悪さを感じるかもしれない。しかし、美的でかつ使用感の素晴らしい端末を開発してきた実績を考える限り、アップルは競合他社よりも成功する確率が高そうだ。

●背景となるニュース

*アップルは5日、拡張現実(AR)対応のゴーグル型端末「Vision Pro(ビジョン・プロ)」を発表した。価格は3499ドル。

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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▽米アップル、ARヘッドセットの新興ミラを買収=報道<ロイター日本語版>2023年6月7日8:37 午前