[ロンドン 27日 ロイター] – ベラルーシのルカシェンコ大統領は、ロシアのプーチン大統領に感謝するかお願いする立場が続いた。資金の借り入れから安価な天然ガス供給、国内の反政府活動への対応、戦術核配備の問題にいたるまで、その対象は広範だった。

ところが、ロシア民間軍事会社ワグネルの武装反乱を巡り、その立場は180度入れ替わった。

ワグネル創設者のエフゲニー・プリゴジン氏が起こした反乱を収める上で、ルカシェンコ氏が果たした役割の全貌はまだ分かっていない。それでも、ロシア政府の高官たちから利用価値はあるが変わり身が速く、何かと要求が多いとしてずっと軽視されてきたルカシェンコ氏は今、ロシアで非常に丁重に扱われつつある。

ルカシェンコ氏本人やプーチン氏の話では、下手をするとロシアの体制転換につながってもおかしくなかったワグネルの反乱を終わらせた主役の1人こそが、ルカシェンコ氏だった。

ルカシェンコ氏本人の説明によれば、プリゴジン氏には電話で長時間にわたって反乱をやめるよう説得を続け、プーチン氏には急いで行動しないよう助言。プリゴジン氏に対しては「(モスクワへの)道半ばで虫けらのようにつぶされてしまうぞ」と警告し、翻意を促したという。

ルカシェンコ氏のこうした「功績」の見返りとして、ロシア側が従来以上に何をベラルーシに提供できるのか、まだ、はっきりしない。

ただ、ルカシェンコ氏は最も控えめに言っても、今回の件でロシアの同氏に対する政治的信用を高める成果を手にしたことになり、必要な時期にこの信用を利用して金融・経済面でロシア側からさらなる支援を引き出せる。

実際、ルカシェンコ氏の政敵らは、ワグネルの反乱を抑えた行動は、全て保身が動機だったのだろうとの見方をしている。同氏は「欧州最後の独裁者」として1994年以降ベラルーシを統治し、政敵の多くを投獄したり国外脱出に追いやったりしてきた。

ベラルーシ反体制派指導者で隣国リトアニアに逃れたスベトラーナ・チハノフスカヤ氏はツイッターに「プーチン氏の支えがなければ、ルカシェンコ氏の体制は生き残れない」と書き込んだ。

別の反体制派の1人は、プーチン氏とルカシェンコ氏について「互いに嫌っているが、必要としている」と「一蓮托生の間柄」だと説明した。

ルカシェンコ氏も、自らとベラルーシの現体制の命運がプーチン氏と切っても切れない関係にあると認めている。27日には「もしもこの混乱がロシア全土に広がっていたなら、そしてその前提となる条件は無数にあったわけだが、次はわれわれの番だっただろう。ロシアが崩壊すれば、われわれ全員ががれきの下敷きになる」と語った。 

<ロシアの称賛>

ロシア議会下院は27日の開会に際して、ルカシェンコ氏とプーチン氏に賛辞と拍手を送った。

プーチン氏も26日夜に行った反乱収束後初めての演説で、ルカシェンコ氏に対して「彼の努力と献身で事態が平和的に決着した」ことに感謝を表明した。

ロシア国営テレビの有名司会者はルカシェンコ氏をロシアにとって英雄に値すると持ち上げ、ペスコフ大統領報道官は27日、ルカシェンコ氏を「経験豊富で賢明な政治家」と呼んでいる。

ベラルーシ国内のメディアも、厳重な統制下での声ではあるものの、ルカシェンコ氏をロシアの救世主とたたえた。

独立系メディアが伝えた国営テレビの放送内容によると、司会者はベラルーシが「スラブ民族の平和の立役者」になりつつあると評し「何百、いや恐らくは何千人ものロシア国民が救われた。大ロシアの領土的一体性と社会的な調和も救われた」と述べた。

ロシアの権力中枢を揺さぶったワグネル反乱の余波は、まだ続いている。

そうした中でルカシェンコ氏の仲介により、反乱首謀者のプリゴジン氏がベラルーシ国内に入ったことが明らかになった。今後は数千人に上るワグネルの戦闘員が、プリゴジン氏に続いてベラルーシに入国するかもしれない。

ルカシェンコ氏は27日、ベラルーシがワグネルを恐れる必要はないと強調。「われわれは彼らを注視していく」と付け加えた。

(Andrew Osborn記者)