マイナンバーカード(マイナ保険証)の紐付けミスというトラブルを契機に、マイナ保険証に対する批判が勢いを増している。歩調を合わせるように現行保険証の存続運動ともいうべき報道がマスコミを賑わしている。個人的には出遅れたデジタル社会への移行を推進する上で、マイナカードやマイナ保険証は必要不可欠だと思っている。マスメディアで連日繰り返される一方的な批判(いつものことだが)は本当に正しいのか、ある種の疑念と懸念を抱いていた。そんな折に評論家・髙橋洋一氏がYouTubeで「健康保険証は通名利用が認められており、不正利用がかなり多い」という発言を耳にした。世界に冠たる日本の国民皆保険制度である。保険証が悪用されているとすれば大問題ではないか。気になって調べてみた。調べるといっても例によってネット検索程度のこと。初歩的な調査にすぎない。いろいろ調べているうちにウィキペディアに行き着いた。以下のような記述があった。

「日本では、現行の保険証で正確な本人確認が困難であるために不正使用や誤りが毎年約500-600万件、その処理には約1000億円ほど必要になっている。現行保険証の“闇”だ。従来の保険証による又貸しやなりすまし(詐欺罪)等の不正問題や誤請求の防止という日本国の医療保険制度の適正かつ効率的な運営を図るため、2021年10月からマイナンバーカードのICチップ(電子証明書)を利用した「マイナ保険証」が導入されることとなった。2024年秋に、紙やプラスチックだけの旧来の保険証は廃止される予定である」。ウィキペディアだからかなり事情に詳しい人が書いたのだろう。これをみてマイナ保険証には不正利用防止という隠された役割があることを知った。そういえば現行の保険証には顔写真がない。本名ではなく通常使っている名称(通名)での登録も可能だという。非居住者にとっては登録(悪用)しやすい制度だ。

ウィキペディアには不正利用の具体的事例も記載されている。一例を挙げれば非居住者による高額医療制度の悪用。その結果、政府が負担するコストは年間で1000億円を超えているという。なんということだ。マイナ保険証の紐付けミスは、発覚した分全体で7300件程度である。紙の保険証の不正利用は年間500~600万件に上る。ヒューマンエラーがあっていいわけはない。だが、それを微にいり細を穿って報道するメディアは、結果的に現行保険証の存続を主張し不正利用に加担することになる、と言いたいのだ。YAHOOニュースに日本総研の石川智久氏のコメントが掲載されている。「(マイナ保険証の)問題点だけでなく、現行制度の問題点も指摘する必要があります。(両者の)メリットとデメリットを冷静に分析して、より効率的で財政コストが低い方法を選ぶべきです。メディアにおいてもバランスの取れた報道を望みます」。木をみて森を見ないのがメディアの常だ。短絡的で一方的で、いつも上から目線。そして絶えず本質を見失っている。