[30日 ロイター] – 米連邦最高裁が6月29日、大学の入学選考で黒人や中南米系を優遇する積極的差別是正措置(アファーマティブ・アクション)について違憲の判断を下したことで、米国の一部企業は従業員の多様性を確保する取り組みが制限され、訴訟を起こされる可能性が高まりそうだ。
今回の判決はハーバード大とノースカロライナ大を対象としており、職場差別に関する法律は対象外であるため、企業に直接影響するわけではない。しかし、企業の人種多様性方針が将来、法廷で訴えられる土壌はできたかもしれない。
学生は「人種に基づくのではなく、彼もしくは彼女個人としての経験に基づいて取り扱われなければならない」と、最高裁のロバーツ長官は、今回の判決で記した。
ゴーサッチ判事も同意意見の中で、大学教育を含む米連邦政府支出のプログラムにおける人種差別を禁じる連邦法は、職場差別を禁じる法律と「本質的に同じ」であると指摘した。
法律家その他の専門家によると、最高裁は、同じ基準を企業の多様性、平等性、包摂(インクルージョン)方針にも適用することを示唆している可能性がある。こうした方針は、人種や性別に基づく優遇につながると批判されてきた。
企業のこうした方針に対して訴訟を起こしてきた「アメリカン・シビル・ライツ・プロジェクト」の執行ディレクター、ダン・モレノフ氏は、最高裁の判決について「人種のバランスそれ自体を目的とした採用プログラムはどれも、わが国の法律を順守し得ない、という心強い注意喚起だ」と歓迎した。
米企業は何十年も前から、職場の人種多様性を確保するための措置を講じてきた。ただ、そうした取り組みが特に強化されたのは、2020年にジョージ・フロイドさんなど黒人が警察に殺害される事件を受け、全国的に人種問題への注目が集まってからだ。
企業の多様性方針の支持者は、平等性が高まるだけでなく、より良い人材を引き付け、顧客層から支持されれば、ビジネスにもプラスになると主張している。
60年近くにわたり、連邦法は雇用主が労働者の人種や性別、その他の保護されるべき特性に基づいて判断を下すのを禁じてきた。逆差別訴訟はよくあるが、多様性プログラム全般の合法性に関する判例はほとんどない。
最高裁は1979年の判決で、熟練工の研修生の少なくとも半数を黒人にするという化学会社の方針を支持した。同裁判所は、この方針は一時的なものであり、会社による過去の差別を是正する目的であるため合法だと説明。ただ、より広範なアファーマティブ・アクション方針であれば法律に違反するかどうかの判断は下さなかった。
<警鐘>
雇用差別に関する連邦法を執行する米雇用機会均等委員会(5人)のアンドレア・ルーカス委員によれば、最高裁判決をきっかけに企業では、自社の多様性方針を見直し、漠然とした平等目標の名の下に法律に違反していないかを確認する動きが広がりそうだ。トランプ前大統領によって任命された同委員は「最高裁判決は、雇用主に警鐘を鳴らすはずだ」と語った。
最高裁判決は、人種的マイノリティの学生に 「プラス」を与えるなど、具体的な入学選考の方針に言及した。企業も特定の層を優遇しているとして多様性プログラムの不当性を訴えてきた人々は、これによって意を強くしそうだ。
ロバーツ長官は「限られた枠を応募者が競い合うプロセスでは、ある人種の優遇は他の人種へのペナルティとして機能する」と記している。
こうしたことを踏まえると、白人や男性労働者による差別訴訟は急増していく可能性がある。連邦政府の請負業者は数十年来、雇用機会を均等にする措置を義務付けられてきたが、この件を巡る訴訟も増えるかもしれない。
製薬大手ファイザーは昨年、同社が設立したフェローシップ・プログラムが白人とアジア系米国人の応募者を差別しているとして、医療専門家グループが起こした訴訟の棄却を勝ち取った。原告側は、この判決を不服として控訴している。
弁護士らによると、大半の雇用主の多様性・包摂方針は、最高裁で争われた入学選考のように数値目標を設定しておらず、より幅広く多様な候補者を集めることを目的としている。
法律事務所ロープス・アンド・グレイのパートナー、ダグ・ブレイリー氏によれば、このような広範な方針であれば、訴訟を免れる可能性が高い。
ただ、幹部に占める女性や人種マイノリティの割合に数値目標を定めているような企業の場合には、訴訟を受けやすい。
ブレイリー氏は「方針が厳密かつ厳格であるほど、訴訟を起こされる確率は高まる」と述べた。
(Daniel Wiessner記者)