[ロンドン 3日 ロイター BREAKINGVIEWS] – ロシア民間軍事会社ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏が起こした武装反乱は失敗に終わったとはいえ、プーチン大統領の権力を弱めた。 

それだけでなくプーチン氏にとって最も重要な盟友である中国の習近平国家主席にも、後退を強いたことになる。同時に中国は経済の低迷や、米国が主導する西側連合との対立激化という問題に直面している。

もはや中国が「世界最強の座」を手にする道筋は、おぼつかなくなってきた。

中国は今も、特に台湾にとって脅威だ。だからこそ米国と同盟諸国は警戒感を緩めていない。しかし、新たな状況の出現により、西側と中国がウクライナの和平や気候変動などで協力できるチャンスが開けてくるかもしれない。

過去2年間で国際情勢は大きく変わった。2021年当時、米国は慌てふためきながらアフガニスタンから撤兵し、同盟諸国の足並みは大きく乱れていた。

さらに中国経済は新型コロナウイルスのパンデミック中も成長を維持した半面、主要7カ国(G7)の経済は縮小。中国が米国を抜いて世界一の経済大国になるのは、時間の問題と見受けられた。多くの国も勝ち馬に乗ろうとしたことで、中国の威勢は一層高まったのだ。

<ロシア支援の代償>

ところが、そこから中国は下り坂の局面に入った。

ロシアによるウクライナ侵攻直前、習氏はロシアとの「無制限の」協力関係を築くと約束し、もしも、ロシアがすぐに戦争で勝利していれば、習氏は素晴らしい戦略を打ち出した形になったとみられる。この同盟は、西側諸国にとって「待った」をかける手段が乏しい、との印象をより強く与えただろう。

ただ、現実を見ると、ロシアは戦争でしくじった。そして、ワグネルの反乱はプーチン氏のイメージを弱めた上、ウクライナの反転攻勢を後押しする可能性がある。

中国のロシア支援、とりわけ石油と天然ガスの需要という部分は、誰がロシアの指導者であるかにそれほど関係ないのかもしれない。それでも、実際に中国は自らの国際的イメージが損なわれるという代償を伴う形で、プーチン氏を支えている。

一方、ロシアのウクライナ侵攻を機に米国と同盟諸国は、大西洋と太平洋の両地域で協調体制を固め、防衛費増額に動きつつある。インドの外交姿勢も米国寄りに変化し、モディ首相とバイデン大統領は6月の会談で、ハイテクや防衛の分野における関係強化に合意した。

そして、今や西側の地政学的戦略を策定する上で基幹的な存在となりつつある主要7カ国(G7)は、中国経済との関係で「デリスク(リスク低減)」や、先端半導体など軍事転用の恐れがある技術の輸出規制を共同で推進している。米国は、人工知能(AI)向け半導体の対中輸出規制も検討しているところだ。

<借金頼み>

これら全ての要素が、既に低調な中国経済の足をさらに引っ張るだろう。中国政府はこれまでも、ハイテク起業家に対する締め付けや、「ゼロコロナ」政策を引っ張りすぎるといった政策ミスを犯してきた。

もっとも、中国が抱える最大の問題は、2008年の世界金融危機以降ずっと、借金に頼って成長てこ入れを図ってきたことにある。この間に公的部門と民間部門の合計債務は倍増して国内総生産(GDP)の3倍まで膨らんだ。平均すると年間でGDPの1割の規模で借り入れが増えた計算になる。

借金のほとんどは、不動産など収益率が低いかマイナスとなる投資案件につぎ込まれた。その結果、地方政府や国有企業を含めた借り手は返済に四苦八苦している、と長年にわたって中国の経済成長が持続不可能だと警告してきたエコノミストのジョージ・マグナス氏は話す。

当然ながら魔法の解決策も存在しない。これから行われる債務再編は、経済成長に痛手となるだろう。

だからといって現実を直視する時期が遅れれば、その分だけ将来、直面する問題が大きくなる。長い目で見ても、中国は労働力人口が急速に減っていく以上、大幅な成長は見込めない。

投資家も懸念を強めており、過去2年間で人民元の対ドルレートは約12%下落。上海証券取引所の総合指数は、ドル建てで約20%下がっている。

経済の元気が衰えれば、中国が海外に軍事力を投入する力にも制約が加わる。防衛費の急拡大は無理だし、「グローバルサウス」と呼ばれる途上国に影響力を及ぼすための「債務のわな」も、積極的には展開できなくなる。

<共通利益>

こうした情勢変化を受け、中国がどう対応するかについては2通りの考え方がある。

1つ目は、強圧的な態度を慎むというアプローチだ。

もう1つは、国力が峠を越える前に早く影響力を行使しなくてはいけないという重圧を感じるというシナリオだ。

プーチン氏の経験が、中国にとって「反面教師」になるのは間違いない。プーチン氏は、他国を侵略すればそのツケをどのように払わされるのか、身をもって示してくれた。

G7は引き続き、台湾問題に関して最悪事態に備えなければならない。つまり同盟関係を強化しつつ、中国に対するデリスクの作業を加速させる必要がある。

ただ、同時にG7は、最善の展開に向けた取り組みもできる。これは、先月のブリンケン米国務長官の訪中によって生まれた緊張緩和を土台として、共通の利益が得られる分野で、力を合わせる機会を探るという意味だ。

米中は世界における温室効果ガスの2大排出国(2020年時点で中国の排出量は世界の26%、米国は11%)だけに、気候変動対策は非常に分かりやすい共通の問題となる。

理想的には、両国がそれぞれより急ピッチで国内経済の脱炭素化を進めることに合意し、他の国・地域にも同様の努力を促すのが望ましい。

そうした取り決めが今、実現する公算は非常に小さい。バイデン氏が議会で新たに大胆な気候変動対策の承認を得ることができない状況では、なおさらだ。ただし、来年の米大統領・議会選後には違った環境になるかもしれない。

ウクライナの戦争も、中国と協力が可能な問題になり得る。ウクライナ側は反転攻勢を通じて大規模な勝利を望んでいるため、これも現時点では機が熟していないが、その反転攻勢が一段落すれば「和平への窓」が開かれるのではないか。

G7は習氏に対して、プーチン氏にウクライナの主権を尊重する形の和平協定を結べ、と働きかけるよう促し続ける必要がある。ある段階で習氏は、プーチン氏は敗北者なのでそうするべきだとの結論に達するだろう。

中国と米国主導の同盟の対立は、依然として危うさをはらんでいる。それでも中国の力が落ちてきたことは恐らく、西側にとってマイナスよりもプラスを多くもたらすとみられる。

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)