[東京 10日 ロイター] – 日銀が10日に開催した支店長会議では、地場の中小企業などでも「近年にない積極的な賃上げ」の動きが広がっていることが多く報告された。しかし、会議後に記者会見した支店長からは、企業行動を取り巻く環境には不確実性があり、賃上げ持続には不透明感があるとの見方が示された。同日公表した地域経済報告(さくらリポート)では、全9地域中、東海・中国・九州沖縄の3地域の判断を引き上げた。
<人件費上昇分の価格転嫁、「交渉難しい」との声も>
持続的な賃上げについて、中島健至・大阪支店長(理事)は「現時点で判断するのは非常に難しい」と述べた。広島鉄也・名古屋支店長は、人手不足が続く中で人材をつなぎとめる観点から賃上げ継続の必要性の認識は広がっているものの、来年にかけて賃上げが続けられるかは「企業の活動を巡るさまざまな環境変化にかなり左右され、不確実性がけっこうある」と語った。
支店長会議では「先行きの賃上げをにらんで販売価格引き上げを模索する動きが見られ始めている」との報告があったという。
中島大阪支店長は、前回の支店長会議が開かれた4月時点と比べ、企業の価格設定に対する考え方が「少し違うものになってきている」と述べた。ただ、「閾値」を超えて大きな変化が起きているというわけではないとした。企業からは「原材料価格の上昇などに比べると(人件費上昇分の転嫁は)交渉が難しい」との声も聞かれるという。
広島名古屋支店長は、一部に賃上げコストを多少なりとも転嫁する動きが聞かれるが「太宗は既往の原材料高の転嫁を優先したいとの意向が強い」と指摘した。
足元で物価高が続く中、日銀の政策修正を求める声が広がっているかとの質問に対し、広島名古屋支店長は「日銀の政策行動が伴わないと経済の状態にマイナスの影響が起きるのではないかという声を直接聞く感じではない」と答えた。
外為市場で円安に傾いていることについて中島大阪支店長は、大企業から円安についてネガティブな反応は聞かれないとした一方で、経済全体への影響を一部の声で判断するのは適切ではないと述べた。
<景気判断、九州沖縄のみ「回復」の文言>
さくらリポートでは、資源高の影響などを受けつつも、全ての地域で景気は「持ち直し」あるいは「緩やかに回復している」と総括した。
9地域中、最も強い景気判断となったのは九州沖縄で「緩やかに回復している」とした。9地域中、「回復」の文言が入ったのは1地域のみ。新型コロナウイルス感染症の5類移行、アジア各国との直行便の再開に加え、大手半導体メーカーの進出で住宅投資も活発になった。
需要項目別では、個人消費について、9地域中5地域が判断を引き上げた。支店長会議では、多くの地域から新型コロナの5類への移行などで外食や旅行などサービス消費を中心にペントアップ需要が顕在化していることが報告されたという。
生産は東海が引き上げた一方、北海道は引き下げた。支店長会議では、海外経済の回復鈍化で電子部品や素材、資本財などでの生産調整が報告された一方で、自動車関連の生産が車載向け半導体の調達改善から緩やかに持ち直しているとの報告もあり「全体としてみると横ばい圏内」との判断が多かったという。
(和田崇彦)