[ニューヨーク 18日 ロイター BREAKINGVIEWS] – 米資産運用最大手ブラックロックが世界最大の石油会社との関係を強化する。ラリー・フィンク最高経営責任者(CEO)は17日、ウジアラビアの国営石油会社サウジアラムコのアミン・ナセルCEOが、総勢16人の取締役会メンバーに加わると発表した。サウジ国営の巨大エネルギー企業のトップへの接近は米国内で政治的な反発を招きかねない。しかし投資という観点から見れば今回の人事は理にかなっている。
見方によっては、今回の人事は単に取締役会の中で中東地域出身のメンバーが入れ替わっただけとも言える。サウジアラムコの2019年の新規株式公開(IPO)を主導したナセル氏は、クウェート投資庁のトップを務めたバデル・アルサード氏の後任となる。しかしサウジは石油輸出国機構(OPEC)の重要メンバーであり、ナセル氏は化石燃料の将来に影響力を持つ人物だ。
この人事が米国で注目されそうな理由はそれだけではない。2018年にサウジの工作員によってジャーナリストのジャマル・カショギ氏が殺害された事件後に米企業の間に広まった反発はかなり収まっている。しかし一部の米国人にとってこの事件はまだ生々しい。米通信大手AT&Tの元CEO、ランダル・スティーブンソン氏は先週、サウジ政府系ファンドが支援する新興ゴルフツアー「LIVゴルフ」との事業統合に合意した米男子ゴルフ「PGAツアー」の取締役会メンバーを辞任したが、その理由としてカショギ氏殺害事件を挙げた。
つまりフィンク氏は「ダメージコントロール」の軸足を、従来とは政治的に対極の方向にシフトさせているのかもしれない。ブラックロックは最近、気候変動に配慮した企業の経営戦略を支持しているとして、米国内のエネルギー業界から批判を浴びている。ナセル氏の起用は、公的基金にブラックロックから資金を引き揚げるよう圧力をかけているテキサス州などの州で、石油業界の不満をなだめるのに役立つだろう。しかし今回の人事が反感を引き起こす恐れもある。コネティカット州選出のリチャード・ブルメンタール上院議員は、サウジの主導によるOPECの原油価格引き上げ策を批判している。
ただ、フィンク氏とサウジやエネルギー業界との関係は、批判派が示唆するより微妙なものだ。ブラックロックは2021年にアラムコのパイプラインに投資する契約を結んだが、直近の投資家向け説明会では、10%ほどのスペースを再生可能エネルギーへの移行に割いている。またブラックロックの「iシェアーズ・グローバル・エナジーETF」はエクソンモービル、シェブロン、シェルなどが最大の構成銘柄であり、過去3年間にわたりS&P総合500種指数を大きく上回る成績を残している。
しかもブラックロックがこうした反発で打撃を被った様子はみじんも見当たらない。第2・四半期の運用資産は前年同期比11%増の9兆4000億ドルに膨らんだ。同社の株価は過去1年間で20%余り上昇し、Tロウ・プライスやインベスコなどのライバルを余裕で上回る好調ぶりを示している。つまりフィンク氏とブラックロックの投資家にとっては時流を無視することこそが最善の策なのだ。
●背景となるニュース
*ブラックロックは17日、サウジアラビアの国営石油会社サウジアラムコのアミン・ナセル最高経営責任者(CEO)が独立取締役に就任すると発表した。前任のバデル・アルサード氏はクウェート投資庁の取締役会メンバーを務めた経験を持つ。
*ラリー・フィンクCEOは声明で、「アミン氏はアラムコで40年以上にわたる卓越したキャリアを持ち、こうした経歴から当社と当社の顧客が直面する多くの重要な課題について独自の視点を備えている」とコメントした。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)