[岐阜市 31日 ロイター] – 日銀の中村豊明審議委員は31日、岐阜県金融経済懇談会後の記者会見で、欧米のように人件費上昇分が価格転嫁されていることが確認されれば金融政策の正常化も可能だが、その確認には「時間が掛かる」と強調した。政策修正には統計データや企業のヒアリング情報に加え、成長期待の広がりも重要だと述べた。
午前のあいさつでは、人々の成長期待が再び低下し、回復に多大なコストと時間を要することになるとして、金融政策の修正には「丁寧な状況把握と慎重な判断が必要だ」と話していた。
7―9月期のGDPデフレーターは前年同期比プラス3.4%と大きな伸びとなったが、欧米のように単位当たりの労働コスト(ユニット・レーバー・コスト、ULC)は押し上げ要因になっていない。中村委員は、GDPデフレーターの押し上げ要因にULCも入ってくれば賃金が価格転嫁され始めるのではないかとの見方を示した。
中村委員は会見で、政策修正を判断する際には統計や企業からのヒアリング情報に加え、人々のデフレマインドが克服され、成長期待が広がっていくことが一番重要だと述べた。
来年1―3月期には来年の春闘の結果も見えてくるが、中小企業の2023年度業績はまだ明らかになっていないと指摘。「必ずしも1―3月期にスティックする必要はない」と述べ、1―3月には物価目標達成へ解像度が上がるとした前日の田村直樹審議委員の発言とは異なる見解を示した。中村委員は、企業の稼ぐ力が本当に高まることが重要だと強調した。
マイナス金利変更の条件として「経済の回復」を挙げたが、需給ギャップのマイナス圏推移が続いており、持続的な賃金上昇が見通せるなどの着実な変化が起きてくるか確認する必要があるとした。
中村委員は7月の決定会合でイールドカーブ・コントロール(YCC)の運用柔軟化に反対した。その理由として、市場が日銀の意図に反して混乱すると、中小企業の賃上げや設備投資への前向きの気持ちをそいでしまう恐れがあり、「タイミングとしては今ではないと考えた」と説明した。
(和田崇彦)