ジャニーズ事務所の記者会見を中継でみた。ジュリー景子氏の手紙の一節「事務所を廃業することが加害者の親族として、やりきらねばならないことだと思っております。ジャニー喜多川の痕跡をこの世から一切なくしたい」。パニック障害を告白した自身のこれまでの生活が、精神的に決して豊かではなかった実態が垣間見えた気がした。それはそれとして、会社側の責任を問うメディアの質問からは「自らが加害者である」との自覚は微塵も感じられなかった。フジテレビは会見後にコメントを発表している。そこには「当社は、このたび示された方針が速やかに実行されていくよう求めてまいります」とある。短いコメントの最後に「改めてこの問題に対する当社の認識は不足していたと反省しており、企業として、また報道機関として、今回のジャニーズ事務所の件への対応を含め、あらゆる人権尊重のための責任を果たしていく所存です」。これだけで報道機関としての「報道しなかった責任」は免責されるのだろうか?
ジャニーズ問題の本質は、エンタメ業界に君臨した権力者・ジャニー喜多川氏の性犯罪である。この問題は1980年代後半には週刊文春をはじめ一部メディアでとりあげられていた。最高裁の有罪判決もでている。にもかかわらず日本を代表する主要メディアは一切この問題を報道しなかった。テレビ局を中心とした主要メディアが放送しなかったことによって、ジャニー氏の性加害は加速し拡大したはずである。昨日の会見で性被害を受けた人が30日現在で478人にのぼること、うち損害賠償を求めている人が325人に達していることが明らかにされた。メディアがジャニー氏の「不都合な真実」を犯罪として報道していれば、この人数はもっと減少したかもしれない。推測に過ぎないが、権力者の犯罪を知りながら忖度し放置すれば、権力者は図に乗り悪事を加速するだろう。その意味でメディアはジャニー氏に次ぐ加害者でもある。メディアの責任は限りなく大きい。
フジテレビは「この問題に対する当社の認識は不足していた」と反省の弁を述べている。全部調べたわけではないが、これは日本の主要メディアに共通した認識だろう。ジャニーズ事務所の責任を微に入り細を穿って質問する現場の記者の対応を問題にしようとは思わない。だが、ジャニーズ事務所と深い関係にあったメディアが、「認識が不足していた」のひと言で加害者責任を回避できるとは思わない。報道しなかったメディアも加害者として会見を行い、反省の弁と今後の対策を語るべきだろう。フジテレビだけではない。この問題でメディアのトップは誰一人会見をおこなっていない。この間、岸田内閣の前官房副長官である木原氏にまつわる疑惑について、主要メディアはほとんど取り上げていない。報道しないことによって木原氏の政治力はますます強固なものになっている。権力者に忖度し報道しないメディ。何年か後に改めて「認識が不足していた」とコメントするだろう。悪事は単に繰り返されているだけだ。
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