岸田文雄首相は23日午後、第212臨時国会の所信表明演説に臨んだ。今後3年程度を「変革期間」と位置づけ、持続的な賃上げや設備投資の拡大を実現するための支援を集中する。物価高対策は所得税減税を念頭に検討を進め、ガソリンや電気・ガス料金の価格上昇を抑える補助は2024年春まで続けると表明した。
「私の頭に今あるもの、それは『変化の流れを絶対に逃さない、つかみ取る』の一点だ」と語った。「一丁目一番地は経済だ」と述べた。
人への投資や賃金、設備投資、研究開発投資が削減され、消費や投資が落ち込む悪循環を挙げ「この30年間、日本経済はコストカット最優先の対応を続けてきた」と指摘した。「コストカット型経済からの完全脱却に向けて思い切った供給力の強化を3年程度の変革期間を視野に入れて集中的に講じる」と唱えた。
賃上げ税制を強めるための減税措置を実行すると明言した。半導体や蓄電池といった戦略物資の投資・生産の負担を軽減する税制優遇なども掲げた。金融資本市場を「経済活動の基盤」と表現し資産運用業の改革を提示した。
年収が一定額を超えると社会保険料の支払いが生じて手取りが減る「年収の壁」対策にも言及した。「『(年収)106万円の壁』に近づく可能性のある全ての人が壁を乗り越えられるように十分な予算上の対応を確保する」と言明した。
足元の急激な物価高が消費や投資の重荷になっているとの認識を示した。11月初旬にもまとめる経済対策に関し「変革を力強く進める供給力の強化と、不安定な足元を固め物価高を乗り越える国民への還元の2つを車の両輪とする」と提唱した。
急激な物価高に対し賃金上昇が追いつかない現状を指摘し、「税収の増加分の一部を公正かつ適正に還元する」と発言した。首相は20日、与党に所得税減税を含めた国民への還元策の検討を指示した。所信表明では「デフレ完全脱却のための一時的な緩和措置」と訴えかけた。
ガソリン補助金に加えて電気・ガス料金の激変緩和措置も24年春まで継続すると話した。低所得者向けの給付のために重点支援地方交付金を増やす考えを示した。
新たな重点政策に置くデジタル行財政改革にも話題を広げた。デジタル技術を用いた子育てや教育、介護での行政サービスの向上を提起した。「(一般ドライバーが有償で顧客を送迎する)ライドシェアの課題に取り組む」と明言した。
外交・安全保障を巡っては北朝鮮による日本人拉致問題の解決に意欲を示した。金正恩(キム・ジョンウン)総書記との会談を実現するため首相直轄のハイレベル協議を進めると語った。「日朝間の実りある関係を築いていくために大局観に基づく判断をする」と説明した。
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題は「政府として万全の対応をする」と発言した。あわせて「被害者に寄り添った相談対応など、被害者救済に適切に対応していく」とも話した。
憲法改正に関し「条文案の具体化など、これまで以上に積極的な議論を期待する」と説いた。安定的な皇位継承については国会での論議の停滞を踏まえ「立法府の総意が早期にとりまとめられるよう積極的な議論を期待する」と呼びかけた。
【岸田首相の所信表明演説の全文】