伊藤純夫
- 現時点の確度は十分に高くない、政策変更時期「決め打ちできない」
- 賃金・物価上昇で企業も動きやすく-投資を含め新たな挑戦も必要に
日本銀行の植田和男総裁は25日、2%物価目標を持続的・安定的に実現する確度が少しずつ高まっているとし、十分な確度になれば政策変更を検討すると語った。都内で行われた日本経済団体連合会審議員会で講演した。
総裁は企業の賃金・価格設定行動の変化を踏まえれば、日銀の2%目標が「持続的・安定的に実現していく確度は、少しずつ高まっている」との認識を示した。その上で、確度が十分に高まれば「金融政策の変更を検討していくことになる」とも語ったが、政策変更の時期は「決め打ちできない」とした。
日銀は19日の金融政策決定会合でイールドカーブコントロール(長短金利操作、YCC)を中心とした大規模な金融緩和政策の維持を決めた。総裁は会見でマイナス金利の解除などを急がない姿勢も示したが、今回の講演でも、経済や賃金・物価動向を入念に点検して判断していく考えを改めて表明した。
金融政策運営に関しては、物価目標実現に向けた動きを確たるものとするため、「粘り強く金融緩和を継続し、賃金が上昇しやすい環境を整えているところだ」と説明した。来年の春闘で「はっきりとした賃上げが続くかが、重要なポイント」としつつ、現時点では物価目標が実現していく確度は「なお十分に高いわけではない」との見方も示した。
ブルームバーグのエコノミスト調査によると、来年4月会合までにマイナス金利が解除されるとの予想は67%。春闘の第1回集計結果が3月に公表された後の4月が最多の50%となっているが、植田総裁からはそれよりも早い政策修正の可能性を排除するような直接的な発言はこれまでにない。
政策対応余地
物価上昇率が小幅のプラスになることのメリットについては、「景気下振れに対する金融政策での対応余地が拡大すること」を挙げた。金融政策が有効に機能すれば「先行き経済が悪化したり、デフレに戻るリスクが減る」とし、企業にとっても大きなプラスになると語った。
その上で、賃金・物価が動く世界では「企業もより動きやすくなるのではないか」と指摘。人材確保や価格・商品戦略、投資を含めて新たな挑戦が必要になるとしながらも、賃金と物価の好循環のメリットを企業が最大限活用して「前向きの動きを強めていく」ことに強い期待感を示した。
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