Tom Hancock

  • 実際の成長率は1.5%程度とロジウム・グループのライト氏
  • エコノミストらの試算はまちまちでコンセンサス欠如

中国の公式国内総生産(GDP)統計の正確性に対する長年の疑念は、政府統計とは別の独自推計の取りまとめに拍車をかけてきた。今週、当局発表の2023年の経済成長率が政府の年間目標である5%前後と一致したことで、こうした動きが活発化している。

  昨年の成長については、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)に伴う制限解除で消費が回復したことが後押ししたというのがコンセンサスだ。そのことは、中国国家統計局以外がまとめた国内便の発着数や消費関連企業の売り上げの伸びなどのデータからも容易に読み取ることができる。

  地方財政の逼迫(ひっぱく)と輸出減少に加え、不動産建設の急激な落ち込みが下押し圧力になったという点でも、公式発表と非公式の独自推計は一致している。

  両者の相違は主に投資を巡るもので、公式統計では製造業とインフラ投資の急増が不動産部門での落ち込みを上回っている。これには異論もある。ロジウム・グループのディレクター、ローガン・ライト氏によれば、投資全体は昨年ほぼ横ばいであったことから、政府のGDP統計は中国の成長を「大きく誇張」していることを意味する。実際の成長率は1.5%程度と同氏は指摘する。

  投資に関する政府統計を巡ってはここ数年の頻繁な改定によって疑念が高まっている。また最近の数字は異例な大規模調整も示唆している。

  国家統計局は、23年の固定資産投資(FAI)が名目ベースで3%増加したと発表。ただ、投資総額の50兆5000億元(約1040兆円)は「統計法執行機関の検査中に発見された問題のあるデータ 」などの要因により、公表済みの22年のデータと直接比較することはできないとの説明が追記された。

  パンテオン・マクロエコノミクスのエコノミストによると、当局が発表した23年のFAI伸び率は、当初発表された22年の投資総額が7兆元(17%)下方修正されたことを意味する。エコノミストらはこれを「驚くべき」調整と称した。

  香港科技大学で中国の統計を専門とするカーステン・ホルツ教授(経済学)は、今回の修正について「こうした統計がいかに問題含みであるかを示している」とし、ロジウムの試算は妥当と思われると語った。

ますます政治化

  国家統計局は「ますます政治化する行政環境」に陥っているとホルツ氏は指摘。このことが「望ましく見える統計を作成するために、データの集計方法を変更したり、ごまかしたりしなければならない」という圧力を職員にかけることになっているという。

  ロジウムが推計した23年の成長率は独自試算の中でも下限で、ブルームバーグが集計した各独自試算には最も高いもので7.2%成長もあった。このようなコンセンサスの欠如は、公式統計が市場や中国経済に関する議論の基準点として存続する一因となっている。

  ロジウムは「ボトムアップ」アプローチをとっており、不動産投資やクレジットカード借り入れ、政府支出など細かなデータに基づき、消費、投資、純輸出のGDP成長への寄与を測定している。多くの場合、これらの情報は公の情報源から得られるものであり、GDP成長率よりも信頼できるとライト氏は主張する。

異なる結果

  ただ、同様のアプローチで異なる試算も示されている。クアントキューブ・テクノロジーの「GDPチャイナ・ナウキャスト」指標は、今年は「公式発表とほぼ一致している」という。同指標は大気汚染の数値や海運などさまざまな非公式データに基づく。

  中国のGDP統計を巡る疑念は、経済が減速したときに高まる傾向にあり、広範なロックダウン(都市封鎖)にもかかわらず22年の成長率が3%と発表されると懐疑論はピークに達した。

  ボトムアップ法については、中国経済の発展に伴う活動の構造変化などを理由に、その正確性を完全に疑っているエコノミストもいる。

  10年ほど前には「李克強指数」が流行した。前首相にちなんで命名された指数で、李氏はGDPの代わりに「電力消費量、鉄道貨物輸送量、銀行融資残高」に基づく推計に頼っていたと言われる。ただ現在では、中国経済は主にサービス業によって構成され、重工業の役割は小さくなっており、この指数は人気を失っている。

  別のアプローチとしては、インフレ調整されていない公式の名目GDP統計の数値を用い、独立した物価デフレーターを用いて実質成長率を推定する方法もある。こちらはパンデミック以前に人気を集めていた。だが最善のデフレーターを巡って意見の集約ができていない。

  ゴールドマン・サックス・グループのエコノミストらもGDP成長率を巡る試算に言及した上で、「中国経済はどの程度減速したのか。この単純な質問に答えるのは難しい」との認識を示した。

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原題:Did China’s Economy Really Grow 5.2% in 2023? Not All Agree (1)(抜粋)