米国の一人勝ちといった雰囲気の世界経済だが、ここにきて同国に不動産危機が忍び寄ってきた。きっかけは米地銀持ち株会社のニューヨーク・コミュニティー・バンコープ(NYCB)の2023年10〜12月期決算が赤字に転落したことだ。市場の黒字予想に反した赤字転落に加え、配当も減配すると発表、株価が38%急落した。地方銀行株指数も前日比で6%下落した。米国では昨年3月、シリコンバレーバンク(SVB)が取り付け騒ぎを起こして破綻、地銀の連鎖破綻につながった。あれから1年、米地銀で再び金融不安が発生したことになる。原因はFRBによる度重なる政策金利の利上げだ。前回は米国債の下落に伴う評価損の発生が金融不安の引き金となったが、今回はそれに加えて商業用不動産の価格下落が赤字転落の大きな要因。おまけに、欧州と日本の金融機関にも波及した。

ドイツ銀行について野村総研のエグゼクティブ・エコノミストである木内登英氏はリポートで以下のように指摘する。「10-12月に、米商業用不動産関連の損失に備える引当金が、前年同期の4倍以上にまで膨らんだ。引当金は1億2,300万ユーロ(約195億円)と、前年同期の2,600万ユーロから大幅に増加した。前期比ではほぼ2倍である」と。日本ではあおぞら銀行が2月1日、2024年3月期の連結決算見通しを公表、最終赤字が280億円(前期は87億円の黒字)になると発表した。同行の赤字転落は2009年3月期以来、15年ぶりだという。米国の商業用不動産の不振がドイツ、日本の金融機関に波及したことになる。木内氏は同レポートの中で「昨年3月の米銀破綻は、米国内の問題に留まったが、米国商業用不動産の悪化、米国景気の減速は、世界の金融機関の経営にも大きな逆風となる可能性があるのではないか」と危機感をあらわにしている。

米経済は2日に発表された1月の雇用統計で、新規就業者数が35万人増加するなど、引き続き堅調に推移しているように見える。このため、昨年後半から続いていた「FRBは3月に利下げに踏み切る」との期待感が一気に萎んでいる。そんな中で商業用不動産をめぐる懸念が浮上したわけで、先行きの見通しは一段と不透明になりそうだ。米国の不動産市場の先行きについても見方は分かれている。強気説、弱気説が混在する中で、どちらに傾くか世界経済にも大きな影響を与えそうだ。いずれにしても中国の不動産不況が深刻化する中で、米国の商業用不動産をめぐり金融機関の経営不安が表面化したわけで、世界中がリーマンショックの再燃懸念に怯えることになりそうだ。あおぞら銀行の赤字転落に関して鈴木金融相は6日の記者会見で、「日本の金融システム全体への影響は限定的」との認識を示している。毎度の公式発言に過ぎないが、果たしてどうだろうか?