[リッチモンド(米バージニア州) 5日 トムソン・ロイター財団] – 米バージニア州下院議員のマーカス・サイモン氏は、同州フレデリックスバーグで開催されたガンショー(銃器即売会)に出向いて銃自作キットを現金で購入し、90分ほどで基本的に追跡不可能な銃を自力で組み立てた。キット購入の際に身分証明の提示を求められることはなく、身元調査も受けなかった。
サイモン氏は「これが実態だ。買おうとする人がいなければ、ガンショーでこんな物が販売されることはないのに。こういうことが可能で、さほど難しくなく、しかも16、17歳でも簡単にできそうだということが分かった。事態はいささか切迫している」と危機感をにじませる。
サイモン氏をはじめ全米各地の議員が今年、製造番号がなく追跡が難しい、いわゆる「ゴーストガン(幽霊銃)」を禁止する法案の成立に動いている。
米司法省の2023年の報告書によると、法執行機関が回収して連邦政府に提出した自作の疑いのある銃器の数は、17年の1629丁が21年には1万9273丁に急増した。
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銃は3Dプリンターのほか自作キットで作ることも可能だ。製造技術が急速に進み、連邦政府や地方自治体は日々進化する課題への対応に苦慮している。
サウス・テキサス・カレッジ・オブ・ロー・ヒューストンのドルー・スティーブンソン教授は「幽霊銃を禁止する州は増えていると思う。製造番号のないこうした自作銃は、警察が犯罪現場で押収する銃器に占める割合が年々高まっている」と話す。
<禁止に動く州政府>
バージニア州など少なくとも一部の州が今年、幽霊銃を禁止するか制限しようと動いており、既に幾つかの州が近年、独自の規制を導入した。サイモン氏の法案は有効な製造番号のない銃器の販売や所持を禁じる内容で、州議会の上下両院を通過している。
一部の州が銃規制を強化したため、法規制を回避しようとする人々にとって3Dプリンターや銃自作キットがより魅力的な選択肢になってきていることも問題の一つだ、とサイモン氏は指摘。「われわれは技術の進歩にやや遅れを取っている。それは間違いない。絶対に置いて行かれないようにしたい」と決意を示した。
幽霊銃禁止の動きは、マサチューセッツ州やバーモント州にも広がっている。
ペンシルベニア州の2大都市、フィラデルフィアとピッツバーグの警察は、犯罪現場で押収される幽霊銃の数が大幅に増加している事実を把握していると、銃規制支持団体シーズファイアPAのアダム・ガーバー氏は指摘する。
重罪犯など銃器の所有が禁止されている人々が幽霊銃に向かっていることが明らかになり、それがきっかけとなって議論が変わり始めたという。
銃暴力防止ギフォーズ法律センターのリーガルディレクター、デビッド・プシーノ氏によると、銃器の分野では3Dプリンター技術がこの10年で急速に進歩し、高い殺傷能力を持つAR15のような銃と見分けがつかない銃器が作れるところまで来ている。
バイデン政権は22年、幽霊銃の使用を規制する取り組みを進め、今年2月には規制を強化する新たな法律を違法とした下級審判決について、連邦最高裁に取り消しを求めて上訴した。
<つきまとう言論の自由問題>
銃保有擁護派は、銃の所持を禁止することは合衆国憲法修正第2条が保証する、武器を保持し、携帯する権利を侵害すると主張している。
銃保有擁護団体「修正第2条財団」の創設者アラン・ゴットリーブ氏は、製造番号と政府登録を義務付ける法律は認められるのではないかと見ている。だが、それでも「銃を自作してはいけないというのは、憲法修正第2条に対する完全な違反だ」と主張する。
テキサス州を拠点とするディフェンス・ディストリビューテッドは、自作銃のオンライン設計図の初期の一つを作成した団体。自作銃設計図の禁止はコンピュータープログラムを禁止するのと同じで、言論の自由に抵触するという斬新な主張を展開しようとしている。
スティーブンソン教授によると、銃規制強化法の是非を巡る最高裁の判決が出れば、その後、州政府の取り組みが再び活発化する可能性がある。「連邦レベルで銃禁止が支持された場合、民主党が議会で過半数を手にしている州が一斉に州法を制定するだろう」と予想している。
今のところ、コロラド州のように製造番号のない銃器や部品の販売や所持を禁止する新しい法律が1月に施行された州は、技術の進歩に遅れをとらないよう努力するので精一杯だ。
銃規制支持団体「コロラド・シーズファイア」のアイリーン・マッキャロン氏は「他の州、特に保守的な州が後に続いてくれることを望んでいる。幽霊銃は誰にとっても危険だからだ。銃は政治的な信条に関係なく大惨事を引き起こす」と今後の取り組みに期待を示した。