財界が介入を要請する事態に発展した円安、根本的原因はなんだろうか。ど素人がなけなしの思考をめぐらせてみたところで、簡単に答えがみつかるはずはない。それはわかっているのだが、ちょっとした好奇心に煽られることもある。ってなわけで、財務省が3月にスタートさせた国際収支有識者会合の資料に目を通してみた。この会合の正式名称は「国際収支から見た日本経済の課題と処方箋」とある。財務省が提出した資料の左上には小さな文字で「国の信用を守り、希望ある社会を次世代に引き継ぐ」と書いてある。財務官僚も日本経済の先行きを心配しているのだろう。それはいいのだが、いつもの癖で財務官僚の真摯な懸念に茶々を入れたくなる。「次世代に引き継ぐ」とはなんだ、まるでいまの日本が「希望ある社会」のような印象を受けるではないか。どうすれば希望ある社会になるのか、そこがこの会合の課題だろう。

円安の原因は内外の金利差が拡大していることに加え、大幅な黒字が常態化していた経常収支黒字が縮小していることに一因がある。中長期的的な収支の見通しについて同省は「一段と高齢化が進展する中で貿易・サービス収支の赤字が定着・拡大し、経常収支黒字が縮小する見通し。(シンクタンクの)中には赤字転化する推計も」と記している。ものづくり大国・日本の経常収支は貿易黒字を背景に拡大の一途をたどってきた。その貿易収支が巨大な対日赤字を抱えた米国の不満から黒字減らしを迫られることになる。窮余の策としてはじまったのが工場の米国への移転だ。経済のグローバル化が進展する中で日本は、米国にとどまらず工場の海外移転を積極的に推進した。コストの安い中国は海外移転の最適地となり、あらゆる業種で中国への進出を積極的に行なった。コロナ禍でマスク不足が顕在化したのはその象徴か。ものづくり大国・日本は国内でものづくりをしなくなってしまった。これがいわゆる空洞化だ。

財務省の提出した資料には次のように記されている。「近年の貿易赤字傾向の背景としては、自動車に匹敵する黒字の担い手の不在、生産拠点の海外移転、基礎的資源の輸入依存などが挙げられる」と。頼みの綱は「好調なインバウンドを背景とした旅行収支」。コロナ禍で低迷していた旅行収支は2023年に急回復する。観光資源に恵まれていることもあり、旅行収支はこの先も黒字が拡大する見通しだ。その反対に旅行収支の黒字を食い潰しそうなのがデジタル収支の赤字拡大だ。海外への直接投資や証券投資を中心とした第一次所得収支も大幅な黒字拡大が続く。旅行収支とともに経常収支の二大黒字要因だ。だがここにも問題がある。ドルで受け取った所得がドルに再投資されていることだ。巨大な黒字が出ているものの、これが国内に還流しない。デジタル関係の赤字拡大は円売り・ドル買いとなるため円安要因だ。かくして構造的な円安が続く。空洞化の弊害を見過ごしたこと、異次元緩和が長期化したこと、結局は複合的な政策ミスが円安を招いたことになる。

ムームードメイン