Arsalan Shahla
- ライシ氏は最高指導者の有力後継候補だった-外相らも同乗
- 50日以内に大統領選実施も、アナリストの多くは政策変更見込まず
イランのライシ大統領が搭乗していたヘリコプターが19日に同国北西部の山岳地帯で事故に遭い、捜索が行われていたが、20日に死亡が確認された。ライシ氏は最高指導者ハメネイ師の後継者になることが有力視されていた。
国営メディアがライシ大統領と、同乗していたアブドラヒアン外相の死亡を発表した。救助隊は事故現場の特定と現場への到着に数時間かかっていた。
ライシ大統領のヘリは事故当時、隣国アゼルバイジャンとの国境地帯で開催されたイベントから計3機で戻る途中だった。大統領のヘリには計9人が搭乗していたが、全員死亡したという。他の2機は無事に着陸した。濃霧のため捜索活動は難航していると国営メディアは報じていた。
ライシ氏(63)は保守強硬派の聖職者でハメネイ師(84)に近く、米国とイスラエルに深い不信を抱くとともに、中国およびロシアとの関係強化に取り組んでいた。最高指導者はイランの外交・軍事戦略に最終的な発言権を持つ。
ハメネイ師は国営テレビが報じた声明で、事故の結果として「内政に何らの混乱もない」と表明するとともに、ライシ氏の無事を祈るよう国民に呼びかけていた。
米国務省の報道官は、今回の事故に関する報道を注視していると述べ、それ以上のコメントは避けた。ホワイトハウスによると、バイデン大統領はイランに関する状況説明を受けている。
米民主党のシューマー上院院内総務は、事件性を示す証拠はないと情報当局から報告を受けたことを明らかにした。NBCが伝えた。
ライシ大統領は19日、アゼルバイジャンとの国境に両国が共同で建設したダムの開所式に、同国のアリエフ大統領と共に出席。東アゼルバイジャン州から戻る際に事故に遭った。
中東地域は現在、パレスチナ自治区ガザでのイスラエルと、イランが支援するイスラム組織ハマスとの戦争により混乱状態にある。イランは4月に無人機とミサイルでイスラエルに攻撃を加え、イスラエルはイランに対する報復攻撃に踏み切っていた。
ライシ氏は2021年の大統領選で勝利し、穏健派のロウハニ大統領の後を継いだ。この選挙では多数の改革派候補が立候補を阻止され、投票率はイラン史上最低だった。ライシ氏はまた、1980年代後半に数千人に及ぶ政治的反体制派の大量処刑に手を貸したとして、権利団体から非難されていた。ロンドンを拠点とするアムネスティ・インターナショナルは2018年、ライシ氏が「死の委員会」を統括しているとして、人道に対する罪で同氏を調査するよう国連に呼びかけた。
ライシ氏の後継にはモフベル第1副大統領が就く公算が大きい。モフベル氏は最近、多くの外国訪問でイランを代表しているほか、他の同国高官と同様、米国の制裁の対象となっている。憲法に従い、50日以内に選挙が実施されることになりそうだ。アナリストの多くは選挙前後でイランの政策に大きな変更があるとは考えていない。
ユーラシア・グループのアナリスト、グレゴリー・ブルー氏は「イラン指導部は大統領選で改革派や穏健派を排除しつつ、ライシ氏に代わる適切な候補を確保しようと取り組むだろう」と指摘。「新たな選挙は市民の広範な不満と、体制に対する信頼感が地に落ちたことを示すことになりそうだ。またも繰り返されるだろう選挙での政府の演出に市民は抵抗し、ある程度の暴力もあるだろうが、治安部隊や体制派の政権維持を深刻に揺るがす可能性は低い」と述べた。
原題:Iran President’s Death Leaves Supreme Leader Succession in Focus、Iran President’s Death Leaves Supreme Leader Succession in Focus(抜粋)