[ブリュッセル 10日 ロイター] – 9日に投票が終わった欧州連合(EU)欧州議会選挙で、EUの政策に懐疑的なナショナリストのグループが議席を拡大する一方、親EUの主流会派の勢力が後退し、全体として「右傾化」する見通しになった。
欧州議会の最も重要な役割はEUの新たな法案の審査と承認。一般的には、各種規制や指令が発効する前に、EU各国政府と合意するために必要な修正案を策定する。
また次の欧州委員長と欧州委員を承認する手続きも行う必要が出てくる。
一方で今回の欧州議会の勢力変化は、次の5年間に幾つかの大事な政策分野で影響を及ぼしかねない。
<気候変動>
次の5年は、欧州が2030年の気候変動関連目標を達成できるかどうかを左右する重要な局面になる。
EUは過去5年間に、30年の諸目標達成に向けてクリーンエネルギー促進や二酸化炭素(CO2)排出量削減のための措置の法制化を積み重ねてきており、これらを巻き戻すのは簡単ではない。
ただ欧州議会が気候変動対策に懐疑的な色合いを増したことで、せっかくの法規制を弱体化させるような抜け穴を増やそうとするかもしれない。多くの法規制は、次の5年で改めて見直す予定になっているからだ。例えば今年の選挙戦では、35年までにエンジン車の新車販売を段階的に廃止する措置は、一部主流会派の議員を含めて批判を浴びていた。
欧州議会はEU各国と、40年までの法的拘束力のあるCO2排出量削減目標の交渉も進める。この目標は、農業から工業、運輸まであらゆるセクターの30年代の排出量削減の取り組みの方向性を決めることになる。
<欧州防衛とウクライナ>
外交と防衛は一義的には欧州議会ではなくEU各国の主権に属する以上、今回の選挙結果がEUのウクライナ支援ないし別の安全保障問題にすぐ影響を及ぼすわけではない。
それでも全欧州的な防衛関連プロジェクトを巡る各国と企業の協力促進や、各国によるより一体的な兵器購入などの計画策定において、欧州議会は一定の役割を果たすだろう。
このような目標を実現するための欧州委の「防衛産業計画」はEU各国とともに欧州議会の同意が不可欠だ。
欧州統合のさらなる深化に反対する会派の伸長によって、そうした目標の達成は難しさが増すかもしれない。同時に、欧州委のさまざまな計画の実効性を担保するEU予算も、欧州議会の承認を得なければならない。
<貿易>
EUの通商政策における欧州議会の基本的役割は、自由貿易協定が発効する前に承認を与えること。関税発動などには直接関与しない。
欧州委と一部のEU首脳は、ロシアとの間で失ったビジネスの穴埋めや、中国への依存度を減らすために、EUが信頼できるパートナーとの間で新たな貿易協定をより多く締結する必要があると訴えている。
現時点ではメキシコや南米の関税同盟である南部共同市場(メルコスル)といった相手との貿易協定がなお承認待ちの状態にあり、欧州委はオーストラリアなどとも協定を締結しようとしている。
これら全て、特にメルコスルとの協定は反対に直面しており、右派が拡大した欧州議会で承認を働きかけるのはさらに骨が折れる可能性がある。
<対中・対米関係>
欧州委は、米国や中国などの主要ライバルに対してEUが一枚岩の姿勢を見せる必要があると主張する。とりわけ米国でトランプ前大統領が返り咲いた場合、そうした態度が求められそうだ。
また欧州委によると、環境やデジタルといった重要産業で米国と中国がいずれも大規模な政府助成を実施している中で、EUも競争力を維持する上でもっと明確に産業戦略を統一することも必要となる。
ただ右派勢力は、より緩やかで分断的な欧州を提唱しており、これらの課題への対応力は弱まる恐れがある。
<EU拡大と改革>
EUは特にウクライナなど規模の大きい新規加盟国を承認する前に、農業政策と加盟国間の生活水準格差是正のための支援方法を改革しなければならない。現在の財政移転システムはあまりにもコストがかかり過ぎるとみなされているためだ。
ウクライナ、モルドバ、西バルカン諸国などの加盟を認めるには、意思決定方法も見直し、実現がより困難となっている全会一致の必要性を減らすことも不可欠となる。
このような改革が次の5年で提案されれば、欧州議会は具体化作業において重要な役割を担う。欧州統合の深化に反対する右派の発言権が強まれば、改革の行方にも大きな影響を及ぼすかもしれない。