By Ju-min Park
6月11日、北朝鮮と韓国の「風船戦争」が過熱する中、ソウル拠点の団体は北朝鮮領内に何百キロメートルも入り込んで体制批判のビラやスピーカーを投下できる「スマートバルーン」の開発に取り組んでいる。写真はGPSによる位置情報。ソウルで3日撮影(2024年 ロイター/Kim Hong-Ji)
[ソウル 11日 ロイター] – 北朝鮮と韓国の「風船戦争」が過熱する中、ソウル拠点の団体は北朝鮮領内に何百キロメートルも入り込んで体制批判のビラやスピーカーを投下できる「スマートバルーン」の開発に取り組んでいる。
北朝鮮の民主化を目指す団体「朝鮮改革開放委員会」のメンバーはソウルの小さなアパートを借り、3Dプリンターで白いプラスチックの箱と接続部品を製作。中国や韓国のサイトで購入したワイヤー、回路基板、タイマーなどを使って、風船の搭載物の散布を制御する装置を組み立てている。GPS追跡機能を搭載するものもあり、1個当たりの作製に1000ドルもかかる。
同団体は春から秋にかけて北風が吹く時期に、月に1、2回、暗闇に紛れて北朝鮮にバルーンを飛ばす。目的は首都平壌を含む北朝鮮領内深くまで搭載物を投下することだ。中国まで飛んだバルーンもある。
団体メンバーは「われわれのスマートバルーンは高価だが、他のグループが飛ばすバルーンより100倍強力だと思う」と語った。
30人ほどの中心メンバーがいる同団体は、各自の自己資金と寄付金で運営されているが、これまでメディアには活動の詳細を明かしていない。
北朝鮮は最近1000以上の風船を韓国へ飛ばしたが、その搭載物は大半がゴミで、動物のふんと思われるものもあった。
1950─53年の朝鮮戦争は休戦協定が結ばれたが、平和条約は結ばれていない。韓国は9日、北朝鮮がごみをぶら下げた風船を韓国側に飛ばす行為を再開したことを受け、2018年から中止していた北朝鮮向け拡声器放送を再開した。
北朝鮮に風船を飛ばすことの効果は議論の余地がある。風船の着地点、北朝鮮の一般市民が風船が運んだメッセージをどう考えているのかなど独自の検証は不可能だ。
同団体の別のメンバーは、韓国からの風船に北朝鮮が怒ったことに勇気づけられたとし、風船とその搭載物が効果を上げていることの表れだと語った。
<スマートバルーン>
水素を充填したこのスマートバルーンは最大7.5キログラムの荷物を運ぶことができる。
ほとんどのバルーンには、希望する飛行経路や風などの気象条件を考慮し、一度に25枚ずつ、計1500枚のビラを撒くように設定した装置が搭載されている。
今年は一部のバルーンに、北朝鮮の金正恩総書記に批判的なメッセージを流すスピーカーも搭載。脱北者でもある技術開発メンバーによれば、バルーンの典型的な搭載物はスピーカー6個と、聖書と短波ラジオが一つずつ入った6個の袋だという。
小型パラシュート付きのスピーカーは、防水ボックス、リチウムイオン電池、アンプで構成。着地後は北朝鮮訛りで録音された北朝鮮の歌やメッセージが30分ごとに15分間流れる。バッテリーは5日間の寿命がある。
メッセージには「(朝鮮)労働党をなくせば、北朝鮮は生き残れる。金正恩は統一に反対する裏切り者だ」とある。
ここ2年の技術的進歩により、高度計と連動したバルブでバルーンの高度が上がり過ぎるのを自動的に防ぎ、より安定した飛行が可能になったが、それでも天候の影響は受け、飛行経路を制御するのは難しい。
朝鮮改革開放委員会の試算では、バルーンが南北国境から数十キロ以上北の地点に到達する確率は50─60%。旧式の風船の場合、それほど遠くまで飛ばないことが多く、すぐにコースから外れてしまい、ビラも1回分しか投下できないため、それよりはましという考えだ。
<国内から反発も>
活動家らによると、韓国から定期的に北朝鮮に風船を飛ばしている団体は少ない。
韓国政府はかつて独自のビラを北朝鮮に散布したが、10年以上前に中止。2020年には国家安全保障を理由にビラ散布を禁止した。しかし、昨年9月に憲法裁判所が言論の自由を侵害するとして禁止法を無効化すると、各団体が韓国から風船を飛ばす行為は活発になった。
韓国統一省は、裁判所の決定を尊重するとし、必要であれば適切な措置を取ると表明している。
北朝鮮当局は体制批判のビラを散布する韓国の活動家を「人間のくず」と呼び、2020年にはビラ散布への報復として南北共同連絡事務所を爆破した。22年には、韓国からの風船が新型コロナウイルスを運ぶ可能性があると主張した。
スマートバルーンは韓国国内でも物議を醸しており、一部の住民は対立を招くバルーンによって危機にさらされているとして活動家団体と衝突している。
朝鮮改革開放委員会は、国境付近の韓国海兵隊が以前、バルーン打ち上げを行わないよう口頭で警告してきたと主張。これに対し韓国軍は、民間団体によるバルーン打ち上げを制限する権利はないと述べている。