Amara Omeokwe

  • 物価高を乗り切る一因となっていた家計の余剰貯蓄、数カ月前に枯渇
  • 消費の活力が失われつつあり、その影響は経済全体に及びつつある
A shopper on 5th Avenue in New York.
A shopper on 5th Avenue in New York. Photographer: John Taggart/Bloomberg

新型コロナ禍の時期に積み上がった家計の貯蓄は過去数年間、米国の消費者が物価高を乗り切る助けとなってきた。そのクッションがすり減っていることで消費の活力が失われ、経済全体に影響が及びつつある。 

  家計債務の返済遅延は増加しており、企業の決算発表では消費者の慎重姿勢を指摘する声が相次いでいる。5月の米小売売上高は前月比0.1%増にとどまり、前月分は0.2%減に下方修正された。28日に発表される5月の実質個人消費支出(PCE)についてエコノミストは0.3%増を予想しているが、これはガソリン価格の下落が寄与したとみられる。前月の実質PCEは0.1%減と、予想外のマイナスとなっていた。

  個人消費の粘り強さはここ数年、米経済にとって揺るぎない屋台骨となってきた。消費を支える重要な役割を担ってきたのが堅調な労働市場ともう一つ、新型コロナのパンデミック期に膨れ上がった約2兆ドル(約320兆円)の余剰貯蓄だった。

  しかしサンフランシスコ連銀の調査によると、こうした余剰貯蓄は3月時点で完全に枯渇。個人消費の持続性に対する懸念が高まっている。

  サンタンデールUSキャピタル・マーケッツのチーフエコノミスト、スティーブン・スタンリー氏は「パンデミック期に家計が頼れた余剰貯蓄のクッションは、もはや大部分が失われた」と指摘。「そのため、家計の勢いは基本的に現在の収入に左右され、それは必然的に労働市場の動向に応じた形になる」と述べた。

  5月雇用統計では非農業部門雇用者数が前月比27万2000人増加し、エコノミスト予想の全てを上回る伸びとなった。しかし雇用のペースは減速しており、失業率は上昇に転じている。

米失業保険継続受給者、21年末以来の高水準-失業期間が長期化

A Job Fair For Hispanic Professionals Ahead Of Initial Jobless Claims Figures
マイアミで開かれた採用イベントPhotographer: Marco Bello/Bloomberg

  今のところは労働市場の底堅さが消費を下支えし、インフレ抑制に取り組む米金融当局に政策金利を高水準で維持する余地を与えている。エコノミストも家計のバランスシートは全体的に健全だと評価。しかし、米連邦準備制度理事会(FRB)のクック理事ら一部の当局者は、経済の一部で圧力が増していると認めている。

  コンファレンスボードのチーフエコノミスト、ダナ・ピーターソン氏は「消費の減速はすべて米金融当局の計画の一部だ」と指摘。「しかし、それを実際に調整するのは難しく、個人消費が縮小しすぎるのではないかという懸念がある」と述べた。

  ニューヨーク連銀の調査によれば、米国の家計債務は過去最高を更新し、クレジットカードの支払いが滞る消費者が増えている。米国勢調査局による最近の調査では、通常の家計支出を支払うのが「やや困難」または「非常に困難」との回答が全体の3分の1に上った。

  小売企業の一部からは消費者の行動変化を巡る警告も発せられている。 ディスカウントストアを展開するターゲットのチーフ・グロース・オフィサー、クリスティーナ・ヘニントン氏は、同社が目先の成長見通しに慎重なのは、家計の債務水準が理由の一つだと述べている。ウォルマートのジョン・デービッド・レイニー最高財務責任者(CFO)は、買い物客は必需品への支出を増やしているが雑貨の購入は減らしていると語った。

  ウェルズ・ファーゴのシニアエコノミスト、ティム・クインラン氏は「消費者は支出を続けているかもしれないが、それが負担になっている」と指摘。同氏が商務省のデータを分析したところ、米消費者の可処分所得に占める住宅ローン以外の利息支払い額(クレジットカードや自動車ローンなど)の割合は4月に2.4%となり、2008年以来の高水準となった。

  クインラン氏は、2024年後半には個人消費の伸びが鈍化すると予想している。

Houses In Seattle Ahead Of Existing Home Sales Figures
住宅の価値急上昇で一部の米国人は富を増やしているPhotographer: David Ryder/Bloomberg

  ただサンフランシスコ連銀の研究員も認めているように、コロナ禍に積み上がった貯蓄がどれほど残っているか、それが支出にどんな影響を与えるかについては、計算方法が多岐にわたるため不確実性を伴う。

  実際、過去数年の住宅価格上昇や株価の記録的上昇を背景に資産が大幅に増えた人もいる。こうした富を増やした家計による支出継続が、個人消費全体を押し上げる可能性はある。

原題:Excess Savings Are Gone and the US Economy Is Bracing For Impact(抜粋)