By Pierre Briancon

コラム:「どんでん返し」の仏決選投票、マクロン氏苦境は続く

[ロンドン 7日 ロイター BREAKINGVIEWS] – フランスの有権者は、政治情勢に「どんでん返し」をもたらした。7日に行われた国民議会(下院)総選挙の決選投票では、極右「国民連合(RN)」の勝利という予想された展開にはならず、左派連合「新人民戦線(NFP)」が第1党に躍進する見通しだ。マクロン大統領としては、自身の交渉力を幾分取り戻したとはいえ、少なくとも1年間はどの政党も単独過半数を確保できない「宙づり議会」が続く。この事態は、同氏を厳しい立場に置き続けるだろう。

フランスの資産に投資している人々も、過去2週間にわたって心配していたRNが過半数を得る局面が消えたことを素直に喜ぶ暇はない。なぜなら先行き不確実性とマクロン氏の苦境は、いずれも解消されないからだ。

マクロン氏は、極左と社会党、環境派で構成されるNFPから首相を選ぶ可能性がある。だがそれは下院で過半数を大きく下回る少数派政権となる。同氏としては、政権樹立後にNFP内で意見対立が拡大すれば、自身の政治基盤を挽回する機会にできるかもしれない。極左「不屈のフランス」を率いるジャン・リュック・メランション氏は早速、エネルギーや生活必需品の価格統制、最低賃金の14%引き上げといったNFPの重要公約の一部をこの夏にも実行するよう要求。残りの公約もその後実行されるとみられる。そうなるとフランス10年国債のドイツ10年国債に対する上乗せ利回り幅を第1回投票時の80ベーシスポイント(bp)台後半から足元で65bpまで押し下げた債券投資家にとっても、懸念すべき理由は一つや二つではなくなる。

マクロン氏は7日、今後の方針決定に時間をかけると表明した。この間に下院各派の真の実力を見定めるとともに左派の分断を利用し、2年前の選挙で勢力を後退させた中道連合の巻き返しを画策しようとするだろう。もっとも決選投票で大きく引き離されて第4位に下がった主流の保守派全てと、左派側のほぼ半数の議員を取り込まなければ、中道連合が政権を確保するチャンスは生まれず、現実味は乏しい。

つまり極右が過半数を制した場合とは違う種類だが、政治に混乱が広がるのは間違いない。正念場はこの秋で、新しい政権は来年の予算案を提示しなければならない。欧州連合(EU)の財政赤字是正手続き要求に従って、それぞれ国内総生産(GDP)比で5%と112%に上る財政赤字と債務を何とかする必要があり、これはさえない経済成長を意味する。対応するには増税と歳出削減を伴わざるを得ず、結果として公約違反やイデオロギーとの齟齬(そご)、そして恐らくは緊縮措置の導入につながる。その時点で、選挙戦の際に誰かに対して誰が何を約束していようと、もはや効力は失われるだろう。

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(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)