【ワシントン=田中宏幸】米共和党が15日採択した綱領は、大型減税の恒久化や関税引き上げなどトランプ前大統領の主張を色濃く反映し、富裕層への課税強化による格差是正を重視するバイデン政権との違いを鮮明に打ち出した。トランプ氏が当選した場合、米国の経済運営は大きく転換し、インフレ(物価上昇)や円安が加速するとの見方も出ている。

規制緩和

 採択された綱領は、減税や規制緩和を通じた経済成長を前面に打ち出した。

 柱となるのがトランプ前政権が導入した「トランプ減税」だ。2025年末までの期間限定で所得税の最高税率を39・6%から37%に引き下げたほか、日本の基礎控除にあたる全納税者を対象とする控除を約2倍に増やした。綱領ではこれを「恒久化する」と強調した。

 対するバイデン大統領は、「税制を公平にするため、大企業と大金持ちに応分の負担をさせる」と訴え、超富裕層や大企業への増税を掲げている。

 綱領では、エネルギー生産に関する規制の撤廃も掲げた。石油や天然ガスの増産を促し、エネルギー価格を引き下げる。バイデン政権下で導入された電気自動車(EV)の普及に向けた環境規制もなくす。

対中強硬策

 関税引き上げで国内産業と労働者を保護する姿勢も鮮明にした。「外国製商品に対する基本的な関税を支持し、不公正な貿易慣行に対応する」と呼びかけた。

 中国に対しては、関税などで他国と同じ貿易条件を保障する「最恵国待遇」を取り消し、一部商品は輸入を段階的に停止する。綱領には明記されていないが、トランプ氏は全ての輸入品に一律10%、中国からの輸入品には60%超の関税をかけると主張している。

 人工知能(AI)を巡っては、「技術革新を妨げ、過激な左翼思想を押しつけている」とし、バイデン政権が昨年発表したAIの安全性を確保するための大統領令を廃止するとした。

リスク

 共和党の政策はインフレの再燃につながるとの懸念が出ている。

 米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが7月上旬に実施した調査では、経済学者50人のうち28人が、トランプ氏が大統領となった場合の方がバイデン氏の場合よりもインフレ率が高くなるとの見方を示した。バイデン氏の方が高くなるとしたのは8人だった。

 大型減税で企業や個人の税負担が減り、設備投資や消費を加速させれば、インフレ圧力は強まる。関税引き上げも輸入品の価格を上昇させる。再びインフレが加速すれば、米連邦準備制度理事会(FRB)は利上げに積極的な「タカ派」姿勢を強める可能性がある。

 ニッセイ基礎研究所の窪谷浩主任研究員は、「トランプ氏当選の観測が強まれば、インフレ懸念の高まりから長期金利が上昇する可能性が高く、円安・ドル高につながる」と指摘する。