Eliyahu Kamisher、Dana Hull、Julie Fine

  • XとスペースXの本社移転、LGBTQ生徒の保護巡る州法が決定打
  • トランプ氏を正式支持、自身の資産を選挙戦への影響力に使用
イーロン・マスク氏(5月)
イーロン・マスク氏(5月) Photographer: Apu Gomes/Getty Images

イーロン・マスク氏は右派の政治に賭ける全額勝負に出た。

  数々の起業に成功し、世界有数の資産家となった同氏は、ここ数日で保守的ムーブメントへの支持を次々と鮮明にした。ホワイトハウス返り咲きを狙うトランプ前大統領への支持を正式に表明し、自分のソーシャルメディア「X(旧ツイッター)」でそれを繰り返し、声援のボリュームを上げた。トランプ氏を支えるスーパーPAC(政治活動委員会)に、マスク氏は毎月4500万ドル(約70億円)を寄付し、自身の莫大(ばくだい)な資産を選挙戦への影響力に使おうとしている。 

  同氏の右傾斜は所有する2つの著名企業にも影響が及んだ。XとスペースXの本社をテキサス州に移す計画を発表したのだ。同氏によれば、カリフォルニア州の新法成立で「我慢の限界」に達したことが移転の決め手になった。新たな法律とは、生徒の性自認変更を教師が保護者に通知するよう義務付けることを学校区に禁じるものだ。

  ワクチン懐疑論や不法移民の入国阻止といった保守的な大義に、マスク氏は何年も前から賛同してきた。しかし右派的なエートス(社会的信条や倫理的監修)をここまで受け入れたのは、環境保護活動の先頭に立つ電気自動車(EV)を代表するテスラの創業者であり、シリコンバレーのハイテク業界でレジェンドと称賛される同氏にとっては大胆な変身といえる。

  カリフォルニア大学サンディエゴ校のタード・キャウザー教授は、本社移転の発表はマスク氏の姿勢反転としては新しいタイプだという。

  「他の企業とは質的に異なり、マスク氏のこれまでの行動とも一線を画す」と、政治学が専門の同教授は指摘。「完全に社会政策が理由であり、マスク氏がその通りの行動を取ればカリフォルニア州の政治に新たな心配の種になるだろう」と述べた。

Musk Says New Tesla Plants Lose Billions in Rush to Spool Up
テスラのギガ・ファクトリー(テキサス州オースティン)Photographer: Jordan Vonderhaar/Bloomberg

  カリフォルニア州のニューサム知事は16日、マスク氏の発表を受けててソーシャルメディアで反撃に出た。ニューサム知事はトランプ氏によるソーシャルメディア、トゥルースへの投稿をXに引用し、それに「あなたはひざまずいた」とのコメントを記した。トランプ氏の投稿は、マスク氏が多くのプロジェクトで補助金を得るには自分の前にひざまずかなくてはならないとするものだった。

   気候対策で大胆な目標を掲げEV奨励策を講じたカリフォルニア州を敵に回したマスク氏は、自分の富に貢献した地域に背を向ける。

マスク氏、XとスペースX本社をテキサスに移転-カリフォルニアから

  同氏が2022年に440億ドルで買収したツイッター(現在のX)は、長らくサンフランシスコに本社を置いている。巨大な本社ビルはかつて、ツイッターのロゴである鳥のマークで知られていた。進歩的な都市として知られるサンフランシスコでは、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)を経て人口が流出、オフィスビルの空室率は過去最大に跳ね上がった。マスク氏は同市の中心街を「ゾンビがうろつく黙示録」と切り捨てている。

Musk Declares Fan-Submitted 'X' New Twitter Logo In Abrupt Shift
Xのサンフランシスコ本部ビル(2023年)。ツイッターのロゴは撤去されたPhotographer: David Paul Morris/Bloomberg

  ニュージャージー州プリンストンで用地選定会社を経営するジョン・ボイド氏は「Xのブランドを再構築するには、本社をサンフランシスコから移し、マスク氏が非常に居心地良いと感じているテキサス州に置く以上に根本的な方法はない」という。「ベイエリアよりもオースティンの方がビジネス環境として有利だ」と述べた。

  マスク氏の逆鱗(げきりん)に触れたカリフォルニア州の法律は、ニューサム知事の署名によって今週成立した。マスク氏はXへの投稿で「親の権利を大きく破壊する」と糾弾し、子どもたちに「生涯残るダメージ」を与えるリスクがあると非難した。

  問題はマスク氏にとって個人的なものだ。同氏の子どもの一人は2022年、18歳になったのを機に氏名変更の手続きを取った。裁判所に提出された文書では「自分の性自認と、実父とはもはや同居しておらず、今後はいかなる形であれ一切関わりを持ちたくないという事実」を理由にしている。

  メディアや文化における性的少数者(LGBTQ)の肯定的な描写を提唱するGLAADの広報担当者は「ヘイトに満ちた発言で昔から知られる人物が、ニュースサイクルの瞬時を狙って、センセーショナルな作り話で注意を集めようとする。驚きに値しない」と述べた。カリフォルニア州の法律は「LGBTQの生徒の安全とプライバシーを保証するため、教育界の全指導者にモデルとなる」と擁護した。

  サンフランシスコを選挙区とするスコット・ウィーナー州上院議員は、X本社の移転は同市にほとんど影響しないとみている。

  「トランスジェンダーの子どもたちを守る法律が理由で本社移転を決めたという話が本当なら、それほどマスク氏という人間を物語る話はない」とLGBTQ議員連盟に所属するウィーナー議員は述べた。

原題:Elon Musk’s ‘Final Straw’ Moment Marks Political Transformation(抜粋)